はじめに
複雑なシステムのデバッグと検証では、シリアルデータ・パケット、レーザー・パルス、グリッチなど、複数の発生頻度が低いイベント、または断続的なイベントをキャプチャし、可視化することなど、多くの技術的な課題があります。
これらの信号を正確に測定して特性を評価するには、高いサンプル・レートで長時間の波形を取込む必要があります。オシロスコープの標準の取込モードでは、レコード長が有限であるため、サンプル・レートと取込み時間の間で、妥協を余儀なくされます。より高いサンプル・レートを使用すると、より早くメモリを消費してしまい、データの取込時間が短くなってしまいます。逆に、長期間にわたってデータを取込むためには、通常、サンプル・レートを遅くして、時間分解能を犠牲にする必要があります。
レコード長を活かす
図1に示す3.25nsのシングル・パルスを考えてみます。これは、5シリーズMSOを使用して、3,125GS/sのサンプル・レートと12ビットの垂直分解能で1250ポイントの波形データを取得しました。このサンプル・レートと分解能によって、波形の詳細を見ることができます。
ただし、連続する複数のパルスを表示する場合は、取得時間長を長くしなければいけないので、サンプル・レートを下げるか、レコード長を長くするなどの妥協が必要になります。もちろん、サンプル・レートを下げると、水平方向の時間分解能が犠牲になります。
オシロスコープのハードウェア制限までレコード長を拡張することもできますが、レコード長は有限であり、最大レコード長を使用しても、重要なイベントをキャプチャできない可能性があります。
この信号は、6.5ms以上離れた間隔でパルスが発生しています。図1と同じサンプル・レートで信号を取得するために、水平軸スケールを50,000倍に設定し、レコード長を増やすことで、より多くの連続パルスをキャプチャしました(ピークディテクトは、狭いパルスをより見やすくするためにも使用されました)。
図2を見るとわかるように、製品の標準レコード長を全て使って取込みましたが、3.25nsのパルスを3つしか取込めませんでした。この例では、関心があるイベントは取得した波形の0.00005%だけです!
長いレコード長を使った取込では、いくつかの重大な欠点があります:
- 多くのデータ処理が必要です。これにより、最大トリガ・レートが低下し、波形取込みレートが制限されます。
- 保存波形の容量の増加
- 波形転送速度の低下
- 追加のオプションのレコード長は高価
セグメント化されたメモリ・アーキテクチャ
FastFrame™セグメント・メモリを使用すると、アクイジション・メモリをフレーム分割できます。各フレームのレコード長は、FastFrameモードに切り替わる前と同じです、そして、最大フレーム数は、機器の最大レコード長を、フレームのレコード長で割ったものとして計算されます。
指定されたサンプル・レートで、トリガごとに波形データを各フレームに収集することで、対象の波形の部分のみを取込むことができます。次に、取り込んだ順序で個別のフレームを表示したり、オーバーレイ表示して類似点と相違点を識別したりできるため、波形全体を簡単にスキャンして、目的の信号に着目できます。
図3は、100,000フレームを取り込む例を示しています。5シリーズMSOでFastFrameセグメント・メモリを使用すると、パルスは、図1と同じように、短いレコード長および、サンプル・レート3.125 GS / sでキャプチャされます。
FastFrameアクイジション・モードは、1秒あたり5,000,000フレームを超えるバースト・トリガ・レートで波形を取込み可能です。これは、他のオシロスコープよりもはるかに速いトリガ・レートです。
セグメント化されたメモリ・フレームは、図4にオーバーレイされているため、画面上でパルスが重ね書き表示されます。これにより、取得したすべてのフレームをすばやく視覚的に比較できます。
Selected Frameは100,000に設定されており、その波形はオーバーレイ・フレームの上に青色で表示されます。Reference frame(この例では1フレーム目)とSelectedframe(この例では100,000フレーム目)の時間差(Delta)は、画面の右側にある結果バッジに表示されます。
FastFrameセグメント・メモリ・アプローチの利点は次のとおりです。
- 高速のFastFrame波形取込みレートは、間欠的なイベントをキャプチャする確率を高めます
- 高いサンプル・レートを使用することにより、高い時間分解能を維持します。
- パルス間の最小のデッドタイムでキャプチャされ、レコード長の効率的な使用ができます。
- オーバーレイ表示によって、セグメントごとの波形をすばやく視覚的に比較して、異常が発生しているかどうかを判断できます。
フレームの概要
FastFrameセグメント・メモリは、標準のサンプル・アクイジション・モード、ピークディテクト、ハイレゾをサポートしています。FastFrameは、レコードの最後に「Summary」フレームを提供できます。サンプルおよびハイレゾ・アクイジションモードの場合、すべてのフレームの波形の平均を表示するAverage Summaryフレームを追加できます。ピークディテクト・モードの場合、すべてのフレームの波形の最大値と最小値を表示するエンベロープ・サマリを追加できます。
高速フレーム・タイムスタンプ
各フレームの波形は、ストーリの一部のみを伝えます。各フレームの絶対的および相対的なタイミングに埋め込まれた重要な情報もあります。各トリガ・ポイントのタイミングは、タイムスタンプで特徴付けられます。
トリガ時間補間は、サンプル・インターバルのごく一部まで、各トリガ・タイムスタンプに対して非常に高いタイミング分解能を提供します。タイムスタンプはピコ秒の分解能で表示されます。
この分解能は、絶対的なタイムスタンプには適用できないかもしれませんが、個々のイベントは、イベント間の時間間隔を測定するときに非常に強力です。
アプリケーション
断続的なイベントの特性評価 - パルス波形の特徴
FastFrame セグメント・メモリは、デジタル設計の技術者に異なるタイプの機能を提供できます。例えば、マイクロプロセッサ・システムが頻繁に中断されている場合、オシロスコープでタイミング情報を収集するのは困難です。
イベント発生のタイミングや頻度が不明の場合は、オシロスコープを通常のアクイジション・モードに設定できず、必要な情報を確実に取り込むことができません。FastFrameセグメント・メモリは、マイクロプロセッサの割り込みなど、断続的な波形のテストに最適です。図7の例では、狭いデジタル・パルスの間隔は数秒です。通常の取込み方法を使用すると、オシロスコープの最大レコード長を使用しても、このようなパルス測定のタイミング分解能は非常に低くなります。
FastFrameセグメント・メモリは、指定された数のパルスをキャプチャして分析を完了し、それらの間の「デッドタイム」間隔を排除します。これにより、メモリを節約しながら、各パルスを高い水平分解能でキャプチャできます。図7の右側にある測定結果バッジは、平均値が200.5ns、標準偏差が約49psのパルス幅が測定されていることを示しています。また、ディスプレイ上部の時間トレンドの縦棒グラフは、一部のパルスが1秒以上離れていることを示しています。
頻度の低いイベントの測定
FastFrameセグメント・メモリは、指定された数のパルスをキャプチャして分析を完了し、それらの間の「デッドタイム」間隔を排除します。これにより、メモリを節約しながら、各パルスを高い水平分解能でキャプチャできます。図7の右側にある測定結果バッジは、平均値が200.5ns、標準偏差が約49psのパルス幅が測定されていることを示しています。また、ディスプレイ上部の時間トレンドの縦棒グラフは、一部のパルスが1秒以上離れていることを示しています。
バースト性のあるシリアル信号のデコード
FastFrameセグメント・メモリにより、オシロスコープのレコード長をより効率的に使用できます。図9の例では、I2Cシリアル・バスは約半分の時間非アクティブです。FastFrameを使用すると、使用可能なレコード長が実質2倍になります。このテスト・セットアップでは、1つのバスがアナログ・チャネルを使用して取得され、もう1つのバスがデジタル・チャネルを使用して取得されます。
両方のバスからのデコードされたバス波形を簡単に比較できます。選択したフレームのデコードされたバス波形をディスプレイに表示するだけでなく、タイムスタンプされたデータを結果表に表形式で表示できます。さらにオフラインで解析およびレポート化するために、アクイジション全体のデコードされたバス情報により、.CSVファイルにエクスポートされます。
頻度の低いイベントと「ゴールデン」リファレンスの比較
図10の最後の例は、保存されているFastFrameの「ゴールデン」波形リファレンスとFastFrameキャプチャの手動による比較を示しています。リファレンス信号は、テスト中の正常なデバイスから取得され、リファレンス波形に読み込まれます。リファレンス波形コントロールを使用して、特定のフレームを選択します。次に、同じアクイジション・セットアップを使用して、テスト中の別のデバイスで同様の信号をキャプチャします。
次に、フレーム選択コントロールを使用して、取得したフレームを比較のため、リファレンス・フレームを時間調整できます。
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