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リアルタイム・スペクトラム・アナライザの原理と測定


この入門書では、リアルタイム・スペクトラム・アナライザ(RTSA)の動作方法について説明し、またRF信号に関連する測定上の問題を、RTSAを使用して解決する方法をご説明します。

リアルタイム・スペクトラム・アナライザとは? 

現在のRF測定の課題

今日のRFデバイスの動作特性を評価するためには、短時間から長 時間にわたる周波数、振幅および変調のパラメータの変化を把握す る必要があります。掃引型SA(スペクトラム・アナライザ)やVSA (ベクトル・シグナル・アナライザ)といった従来の機器を使用して も、周波数領域や変調領域における信号を表示させることができま す。ただし、この情報だけでは現在のRF信号の動的な特性を評価 するには十分ではありません。以下に示すのが、測定が難しい項目の一覧です。

  • 間欠的で瞬間的に発生するイベント検出
  • パワー・レベルの大きい信号に埋もれたレベルの小さい信号の観測
  • ノイズに埋もれた信号の観測
  • トランジェント(過渡的)で動的な信号の検出と解析
  • バースト伝送、グリッチ、スイッチング・トランジェントの信号取込み
  • PLLセトリング時間、周波数ドリフト、マイクロフォニックの特性評価
  • スペクトラム拡散信号と周波数ホッピング信号の取込み
  • スペクトラム使用状況の監視、逸脱した伝送の検出
  • トランジェントEMIの影響度のテストと診断
  • 時間とともに変化する変調方式の特性評価
  • ソフトウェアとハードウェアの相互動作上の問題識別

各項目の測定には、予測が難しい、時間とともに変化するRF信号 を含んでいます。これらの信号を効率的に特性評価するには、見つ けることが難しい信号イベントを検出し、このイベントでトリガを かけ、信号を取込んでメモリに保存し、周波数、時間、変調、統計、 コードの各領域で信号を解析するための機器が必要です。

各スペクトラム・アナライザの動作原理の概要

RTSA(リアルタイム・スペクトラム・アナライザ)の動作原理を知り、RTSA測定の特長を理解するために、まず従来の2つのRF信号アナライザ、掃引型SA(スペクトラム・アナライザ)とVSA(ベクトル・シグナル・アナライザ)について説明します。

掃引型スペクトラム・アナライザ

従来型の掃引方式の周波数領域解析に特化したスーパーヘテロダイン・スペクトラム・アナライザは、数十年前に初めて周波数領域の測定が行えるようになった計測器です。当初の掃引型SAはすべてアナログ部品で構成され、利用用途に合わせて改善されてきました。現在の掃引型SAには、A/Dコンバータ、DSP、マイクロプロセッサなどのデジタル部品が組込まれています。ただし、基本的な掃引方法はほとんど変わらず、変化の少ない安定した信号の観測に最も適しています。

掃引型SAは、測定信号をダウンコンバージョンし、RBW(分解能帯域幅)フィルタの通過帯域にわたって掃引することで、パワー対周波数の測定を行います。RBWフィルタの後に、選択したスパン内の各周波数ポイントの振幅を出力する検出器があります。この方式は、広いダイナミック・レンジに対応できますが、一度に1つの周波数ポイントに対する振幅データしか計算できません。この方式は、測定する信号が大きく変動しない状態で、アナライザが複数回の掃引を実行できることが必要です。したがって、入力信号は比較的安定し、変動しないことが求められます。

信号が急激に変動する場合、統計的に見て変動が見落とされる可能性があります。図1-1では、SAが周波数セグメントFaを掃引している間に、Fbで瞬間的なスペクトラム・イベントが発生しています(左図)。掃引がセグメントFbに到達したときには、イベントはすでに消失して検出されません(右図)。

 
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図1-1. 掃引型SAは、一連の周波数セグメントを順番に掃引していくため、黄色(Fb)で示した現在の掃引帯域以外で発生したトランジェント信号を取込めない場合がある 

掃引型SAは、このようなトランジェント信号の発生を検出する機能を備えていないため、現在のRF信号のトラブルシューティング時には、長時間にわたって多大な努力が必要となります。瞬間的な信号が検出できないことに加えて、現在の無線通信やレーダで使用されているインパルス信号のスペクトラムが不正確に表示されてしまうことがあります。掃引型SAの方式では、繰り返して掃引を行わない限り、インパルスの占有スペクトラムを表示できません。また、掃引型SAを使用するときには、特に掃引速度と分解能帯域幅の設定に注意が必要です。

 
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図1-2. 掃引型スペクトラム・アナライザ(a)、ベクトル・シグナル・アナライザ(b)、リアルタイム・スペクトラム・アナライザ(c)の単純化したブロック図
 

図1-2aは、現在の一般的な掃引型SAの構成を示しています。現在の掃引型SAは、アナログ機能をDSP(デジタル信号処理)で置き換えていますが、基本的な内部構造や測定能力については変わっていません。

ベクトル・シグナル・アナライザ

デジタル変調された信号を解析するには、振幅と位相両方の情報が得られるベクトル測定が必要です。図1-2bは、簡略化したVSAのブロック図を示しています。

VSAは通過帯域内のRF信号をすべてデジタル化し、メモリにデジタル化した波形として保存します。振幅と位相の情報を持ったメモリ内の波形は、DSPにより復調、測定および表示の処理が行われます。VSA内部では、A/Dコンバータが広帯域のIF(中間周波数)信号をデジタル化した後、ダウンコンバージョン、フィルタリングおよび検波がデジタル信号処理されます。時間領域から周波数領域への変換は、FFT 演算により行われます。VSAは、FM偏差、コード領域パワー、変調精度(EVMとコンスタレーション図)などの変調パラメータを測定します。また、チャンネル・パワー、パワー対時間、スペクトログラムなどの表示が得られます。

  • VSAは波形をメモリに保存することはできますが、トランジェン ト・イベントを解析する能力には限界があります。一般的なVSA のフリー・ラン・モードでは、信号を取込んでメモリに保存した 後で、信号処理が行われます。このVSAのバッチ処理方式では、 アクイジションの間に発生したイベントを取込むことはできない ため、単発的なイベントや間欠的なイベントを確実に検出するこ とは困難です。このような、まれにしか発生しないイベントでト リガをかけることができれば、このイベントをメモリに保存する ことが可能です。残念ながらVSAは、限られたトリガ機能しか 持っていません。外部トリガ機能を使用するとしても、事前にイ ベントの情報がわかっている必要があり、あまり実用的ではあり ません。IF信号の振幅変化によってトリガをかけるレベル・トリ ガを使用しても、大きな信号に埋もれた小さな信号ではトリガを かけることができず、また振幅ではなく周波数が変化したときに もトリガをかけることはできません。現在の過密化した厳しいRF 環境下では、このような信号は頻繁に発生します。

リアルタイム・スペクトラム・アナライザ

リアルタイムという言葉は、実際のシステムに対して初期段階のデジタル・シミュレーションを行う際に使用する専門用語です。デジタル・システム・シミュレーションでは、実システムの動作速度と同じ速度でシミュレーションが動作することをリアルタイムで動作すると呼んでいます。リアルタイムで信号を解析するということは、測定周波数バンド内のすべての信号成分が、正確に高速で解析処理が行われることを意味します。それには次の二つの項目を満たさなければなりません。

  • ナイキスト定理を満足する、十分に高速なサンプリング・レートで入力信号をサンプルことが必要です。これは、サンプリング周波数は測定信号帯域幅の2倍を超える周波数でなければならないことを意味します。
  • 入力信号の変化に対応した解析結果が得られるよう、すべての処理が連続して十分に高速で行われる必要があります。
検出、トリガ、キャプチャ、アナライズ

RTSAは、掃引型SAやVSAでは測定が困難な、前述のような過渡的あるいは動的なRF信号に対して、より確実で正確に測定できることを目的に設計されています。VSAのアクイジション後に解析処理を行う方式に対して、RTSAはDSP(デジタル信号処理)によってメモリに保存する前に信号解析を実行します。このリアルタイム処理により、他の測定機器では観測できないイベントが検出でき、またそのイベントでトリガをかけて必要な信号部分をメモリに保存することができます。メモリに保存したデータは、バッチ処理によりマルチドメイン解析が行えます。リアルタイムDSPエンジンは、信号処理、補正およびその他の解析にも使用されます。

RTSAの心臓部は、図1-2cに示されるようにリアルタイム処理ブロックです。VSAと同じように、広い取込帯域にわたって入力信号をデジタル化します。VSAと違うところは、リアルタイム・エンジンは非常に高速で動作するため、図1-3に示すように間をあけることなくすべての信号をサンプルします。

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図1-3. VSAによる処理と、リアルタイム・スペクトラム・アナライザのリアルタイム・エンジンによる処理との比較

 

アナログIFとRFの応答特性を補償するための振幅と位相の補正は、連続して実行されます。メモリに保存されたデータは正確に補正され、また次のリアルタイム処理はその補正データによって実行されます。このリアルタイム処理を実行するリアルタイム・エンジンは、RF解析に必要な以下のような機能を備えています。

  • アナログ信号経路での信号劣化をリアルタイム補正
  • 掃引型SAやVSAでは検出できないイベントを、DPX®ライブRF表示で検出
  • DPX Density TMトリガとDensity測定は、信号の発生頻度の時間密度で定義されます。
  • ラント・トリガなどの時間クオリファイ拡張トリガは、一般的に高性能オシロスコープに装備されています。
  • FMT(周波数マスク・トリガ)による周波数領域でのトリガ
  • ユーザ設定した帯域でのトリガ/フィルタ機能付きパワー・トリガ
  • 過密化したバンド内にある特定の音声変調信号を聞くことができるリアルタイム復調(RSA6100Aシリーズ)
  • 外部記憶や外部処理用のための連続した信号出力を可能にするデジタル・データのデジタルIQストリーミング

リアルタイム・エンジンは、信号を検出してトリガをかけるだけでなく、連続した信号処理を行い、また利用価値の高い各種解析機能を使用することができます。VSAと同じように、RTSAでもDSPによるアクイジション後の解析が行えます。時間相関が取れた複数領域(マルチドメイン)での測定結果を同時に表示できます(マルチドメイン解析)。

リアルタイム・スペクトラム・アナライザの動作原理

この章では、当社RTSAのメイン・アクイジションと解析処理の構成ブロック図について説明します。説明を容易にするため、主要な機能以外は省略しています。最新のRTSAは、入力周波数範囲内であればどんな通過帯域やスパンの信号でも取込むことができます。この性能を実現する重要な心臓部は、IF(中間周波数)セクションに信号を渡すRFダウンコンバータです。IF信号をA/Dコンバータによりデジタル化した後は、すべてデジタル的に処理します。すべての信号処理と解析機能は、DSP演算により実行されます。この優れたリアルタイム・エンジンによる主な特徴を以下に示します。

  • 広帯域IFパスと広いダイナミック・レンジを実現するRF回路部
  • YIGプリセレクション・フィルタの代わりにバンドパス・フィルタを使用することにより、入力周波数範囲全体にわたりイメージのない周波数変換と広帯域幅測定が同時に行えます。
  • 測定要求に応える十分な信号忠実性とダイナミック・レンジを持ち、またリアルタイム帯域幅全体にわたってデジタル化を可能にするA/Dコンバータ・システム
  • 連続したアクイジションの処理ができるDSP(リアルタイム・デジタル信号処理)エンジン
  • 必要な測定時間にわたって、連続したリアルタイム・アクイジションが行える十分な取込メモリと優れたDSP性能
  • 測定対象信号の解析表示を、すべて時間相関が取れた状態で複数領域表示する、統合された信号解析システム

RF/IF回路部

図2-1は、RTSAの簡易RF/IFブロック図です。RTSAの周波数範 囲内であれば、どんな周波数成分を持った信号でも入力できます。

 
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図2-1. リアルタイム・スペクトラム・アナライザとIFブロック図
 

RTSAに入力した信号は、必要な解析の種類に応じて処理されます。 アッテネータ・ゲイン調整が行われた後、多段周波数変換および同 調型と固定型局部発信器の組み合せにより同調が行われます。各IF 周波数に対してアナログ・フィルタ処理が行われ、IFセクションの 最終段で、IF信号をA/Dコンバータでデジタル化します。デジタル 化した後は、DSP技術を使用して各種処理を実行します。RTSAの 何機種かは、オプションとして、周波数変換することなく直接入力 信号をデジタル化できるベースバンド・モードを備えています。 ベースバンド信号用DSPも、RF信号用DSPと同じように使用されています。

入力切替と信号経路

入力切替と信号経路切換を行うこのセクションでは、各信号経路に 入力信号を送ります。RTSAの何機種かは、低周波数信号を解析す る際にダイナミック・レンジと精度を高めるため、DC結合IQベー スバンド・パスと同じように、別にDC結合ベースバンド・パスを 備えています。またRTSAは、内部校正用信号源も持っています。 RTSAのPRBS(擬似ランダム・バイナリ・シーケンス)、校正さ れた正弦波、変調リファレンスなどに対応した信号を生成するこの 校正用信号源は、温度変化によるシステム・パラメータの変動を補 正するセルフアライメント調整に使用されます。補正が行われるパ ラメータを以下に示します。

  • ゲイン
  • アクイジション帯域幅での振幅フラットネス
  • アクイジション帯域幅での位相直線性
  • 時間アライメント
  • トリガ遅延の校正

工場あるいは修理センタでの外部機器を使った校正と、セルフアライメント処理とを組み合わせて行うことが、RTSAの重要な測定性能を満足させるために必要です。

RFとマイクロ波

RFとマイクロ波セクションでは、最適なダウンストリーム処理が行えるレベルと周波数特性を持つように、入力信号を最適化する広帯域回路を備えています。

ステップ・アッテネータ

ステップ・アッテネータは、抵抗アッテネータ・パッドとRFとマイクロ波スイッチで構成されるデバイスで、設定されたレベル量だけ広帯域信号のレベルを減少させます。ステップ・アッテネータは以下の2項目を実行します。

  1. 処理に最適なレベルまで、入力部でRFとマイクロ波の信号のレベルを減少させます。さらにステップ・アッテネータは、過大なRFパワーを持った高レベル信号による入力部の損傷を保護します。
  2. 周波数範囲全体にわたって広帯域インピーダンス整合を行います。このインピーダンス整合は、RF信号を高精度で測定する際には特に重要です。そのため、ほとんどの機種の仕様では、10dB以上の減衰で規定しています。

ステップ・アッテネータは、RTSAの機種によって変わりますが、一般的には、5または10ステップで0から50dBまでの減衰が設定可能となります。

イメージ除去フィルタとYIGプリセレクタ

RTSAは、入力部からIF最終段にわたって、RFおよびマイクロ波信号をイメージの発生しない状態で周波数変換します。これは、最初のミキサの直前に各種フィルタを置くことにより実現しています。RTSAの機種の多くは広帯域フィルタ内蔵の多段ミキサ方式を採用しているので、取込帯域幅すべてにわたって、再現性が高く優れた振幅フラットネスと位相直線性を持ったイメージのない変換が行えます。

YIGプリセレクタは、広帯域幅信号を測定するときに非常に大きな歪みを発生させます。広帯域幅信号を正確に測定(特に位相測定)するには、狭帯域プリセレクタを通さないことが必要です。

この同調フィルタは、本質的に狭帯域幅なので、フィルタの通過帯域幅にわたり大幅な位相変動が起き、特にフィルタのエッジ部分で大きくなります。

この位相変動を校正により補正しようとしても、フィルタの持つ同調機能により校正が正しく動作しません。同調は、YIGの磁気フィールドを変化させることにより行われます。この磁気フィールドにより同調周波数を制御しますが、最初の同調周波数に戻る場合、磁気構造が持つ磁気ヒステリシスにより、最初の正確な同調周波数に戻ることができなくなります。

位相校正が行われていたとしても、このヒステリシスによる同調周波数の変動により、位相校正に誤差が生じます。結果として、広周波数帯域幅で同調が行われるときに、振幅と位相の測定結果にわずかな変動が発生します。このわずかな変動は、通常温度によっても変化します。

 
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図2-2. 左図は、従来のスペクトラム・アナライザによるYIGプリセレクタを通さないときのマイクロ波周波数信号表示。右図は、YIGプリセレクタを通した時の信号表示
 

プリアンプ

RTSAの何機種かには、イメージ除去フィルタに送る前で信号のゲ インを増幅するセレクタブル・プリアンプをオプションで用意して います。このオプションは、RTSAのノイズ・フィギュアを改善で きるので、非常に小さな信号を解析するときに有効です。入力部で ゲインを増幅すると、解析しようとしている最も大きな信号を制限 することになります。これを避けるには、信号経路からこのアンプ を切り離すことにより、RTSAの入力範囲は元の状態に戻ります。

周波数変換とIFセクション

RTSAのすべての機種は、その測定周波数範囲内であれば中心周波 数がどこにあっても広帯域で解析できます。これは、測定対象とな る周波数バンドを、固定のIFに変換することにより行います。固定 IFではフィルタリング、増幅および振幅調整を行い、その後IF信号 をデジタル化します。リアルタイム処理およびバッチ処理は、測定 信号のマルチドメイン解析を行うときに使用します。

多段周波数変換

周波数変換セクションの働きは、周波数バンドのRF信号から、A/D 変換に最適なIF信号に変換することです。図2-1に示すように、同 調は、多段変換スーパーヘテロダイン方式の局部発信器の周波数を 選択することにより行われます。周波数変換の各段には、IFフィル タと増幅の前にミキサ(アナログ乗算器)が含まれます。IF周波数、 フィルタ特性、ゲイン、レベルの選択は、RTSAの機種によって異 なり、また以下に示す項目で、性能が最適になるように機器を設定 することによっても変わってきます。

  • ミキサとフィルタの欠陥によるスプリアス応答
  • 最小信号と最大信号をエラーなしに同時に観測できるダイナミック・レンジ
  • リアルタイム帯域幅での振幅フラットネス
  • リアルタイム帯域幅での位相フラットネス
  • 信号経路とトリガ経路間の遅延調整

内部校正用信号源

多くの特長を備えたRTSAは、アナログ機器に比べて格段に優れた 性能を持っています。機器が持つフィルタ特性、遅延、ゲインなど は温度によって変化し、また機器によっても異なります。RTSAの 性能は、RTSA内部のフィルタ特性、遅延、ゲインを実際に測定し、 DSPを使用して性能を満足するよう測定結果を補正することにより 実現しています。広帯域RF成分に対する周波数応答とゲイン変化は、 NIST、NPL、PTBなどのNMI(National Metrology Institutes) にトレーサビリティを持った校正済みの機器を使用して、工場出荷 時に測定しています。この校正機器は、RTSAを実際に使用する時 間と場所の測定状況で校正するための内部校正用信号源にも使用さ れます。RTSAは次の2種類の内部信号を使用します。

  • 高精度で温度補償されたリファレンス周波数100MHz(代表値)の正弦波が、信号経路のゲイン調整に使用されます。この信号は、内部RFレベル・リファレンスで、取込帯域幅の中心周波数でRFパワーを測定したときの精度を決定します。
  • 校正済み広帯域信号は、リアルタイム取込帯域幅にわたって振幅と位相特性を補正するために使用します。この信号は、内部チャンネル応答リファレンスです。この信号はDSPに情報を提供し、DSPはこの情報によりアクイジション帯域幅での振幅、位相および遅延の変動を補正します。

DSP(デジタル信号処理)とは?

このセクションでは、当社のRTSAのメイン・アクイジションと解析のブロック構成図について説明します。実際の構成は、機種や測定機能により異なります。説明を容易にするため、付随的な機能は省略しています。

リアルタイム・スペクトラム・アナライザのデジタル信号処理

RF信号を時間相関の取れたマルチドメイン解析が行える信号に変換するため、RTSAではアナログ信号処理とDSP(デジタル信号処理)を組み合せて使用しています。このセクションでは、RTSAの信号処理のデジタル部分について説明します。

図2-3は、RTSAで使用している主信号処理ブロック図を示しています。RF入力から入った信号の周波数バンドは、バンドパス・フィルタを通してからアナログIF信号に変換されます。サンプルしたデジタル・データに対して、振幅フラットネス、位相直線性およびその他の信号経路での劣化を補正します。いくつかの補正はリアルタイムで行い、その他は次の信号処理部分で行います。

 
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図2-3. リアルタイム・スペクトラム・アナライザのデジタル信号処理ブロック図
 

デジタル・ダウンコンバージョン処理と間引き処理では、図2-4に示すようにA/D変換した信号を、I(同相)とQ(直交)のデジタル化したベースバンド信号ストリームに変換します。このIQ信号に変換した信号は、RTSAすべての機種に共通な基本的な信号となります。この後のすべての信号処理と測定は、DSPによって実行されます。リアルタイムDSPとバッチ・モードDSPの両方ともRTSAで使用しています。

 
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図2-4. リアルタイム・スペクトラム・アナライザにおけるIFからIQ信号への変換
 

IFデジタイザ

当社のRTSAでは、通常IF(中間周波数)の中心にある周波数バンドをデジタル化します。この周波数バンドは、リアルタイム解析を実行するため最も広帯域な周波数となります。DCあるいはベースバンドに比較して高周波数IFでデジタル化する方が、信号処理におけるスプリアス、DC除去、ダイナミック・レンジなどの各性能が向上します。図2-5に示すように、IF帯域がナイキスト定理の範囲に入るようにサンプリング・レートを設定します。サンプリング・レートは、IF帯域の少なくとも2倍は必要となります。全IF帯域が、ゼロとサンプリング周波数の1/2、1/2と1、3/2と2などの間にある時は、エイリアシング のないサンプリングが行えます。実際のIFフィルタに対しては、通常IF帯域の少なくとも2.5倍のサンプリング・レートが必要です。

補正

RTSAの仕様にある振幅フラットネス、位相直線性、レベルの各精 度は、アナログのRFとIF信号処理部で構成される機器と比較して格 段に向上しています。当社のRTSAは、工場出荷時校正と、信号経 路に使用しているアナログ部品の温度、許容誤差、経年変化などの ばらつきを補正する内部セルフアライメントの組み合せで高精度を 維持しています。

工場出荷時校正

入力周波数範囲にわたるRTSAのRF周波数応答は、工場出荷時に 測定されます。アクイジション帯域幅の中心周波数におけるRF信 号の変動は、温度変化に対しては予測可能で、また機器の使用年数 に対しても目立った変化はありません。工場出荷時の校正で、RF 応答は不揮発性メモリに補正データとして保存されます。

内部校正

アクイジション帯域幅の応答特性は、IF処理セクションを構成する ミキサ、フィルタ、アンプの組み合せによって影響されます。これ らのコンポーネントは、RTSAで広帯域にわたって取込んだ信号に 対して、わずかな振幅と位相のリップルを与えてしまうことがあり ます。内部校正処理では、中心周波数からのオフセットに対応した 振幅と位相の応答特性を測定します。校正処理は、機器を使用する 時にその測定場所で行われ、手動あるいは温度変化に対応して開始 します。ここで測定された応答特性は、メモリに保存されます。

補正処理

RTSAの補正処理は、工場出荷時に測定したRF応答と、内部校正 が補正フィルタ・セット用FIR係数を生成して測定したIF応答とを 組み合せて行います。この補正フィルタ・セットは、入力コネクタ とA/Dコンバータ間の全経路の振幅フラットネスと位相特性を補正 します。この補正フィルタは、RTSAの機種によってリアルタイ ム・デジタル・ハードウェアまたはソフトウェア・ベースのDSPに より実行され、デジタル化したIQストリームに適用されます。

デジタル・ダウンコンバータ(DDC)

バンドパス信号を表す、一般的で計算上効率的な方法は、波形のベースバンド複素表記を使用することです。

RTSAは直交複素座標系を使用し、信号のI(同相)とQ(直交)のベースバンド成分のサンプル・データとして表します。この処理は、図2-4に示すようにDDC(デジタル・ダウンコンバータ)で実行します。

一般的にDDCの数値制御発信器は、測定対象バンドの中心周波数でサインとコサインを生成します。サインとコサインを、デジタル化したIF信号と数値的に乗算し、元のIFに存在するすべての情報を含んだIとQのベースバンド・サンプルのストリームを生成します。DDCでは、デジタル化したIF信号をベースバンドに変換し、また周波数同調の微調整も行います。

IQベースバンド信号

図2-5は、デジタル・ダウンコンバータを使用して、1つの周波数バンドをベースバンドに変換する処理を示しています。

 
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図2-5. パスバンド情報は、1/2のサンプル・レートでもIとQに含まれる
 

元のIF信号は、サンプリング周波数の1/2と、サンプリング周波数の間に含まれています。サンプリングにより、サンプリング周波数のゼロ位置と1/2の間、この信号のイメージが生成されます。次に、この信号を、通過帯域の中心で位相がそろったサインおよびコサインの信号で乗算し、エイリアシング防止フィルタを通してIQベースバンド信号を生成します。このベースバンド信号は実数値で、原点に対して対称となり、正と負の周波数に同じ情報を含みます。元の通過帯域に含まれていた信号成分はすべて、これら2つの信号にも含まれています。各信号に最低限必要なサンプリング周波数は、これで元の半分になっています。次に2で割って信号を間引くことが可能です。

間引き処理

ナイキスト定理では、ベースバンド信号には、測定対象信号が持つ最高周波数の2倍のサンプリング・レートがあればよいと述べています。すなわち、バンドパス信号に対しては、少なくとも帯域幅の2倍のサンプリング・レートが必要です。測定帯域幅が最高帯域幅より低いときは、サンプリング・レートを遅くすることができます。サンプリング・レートの減少や間引き処理は、帯域幅、処理時間、レコード長あるいはメモリ使用量を軽減するために行います。

当社のRSA6000シリーズでは、たとえば40MHzのスパン(取込帯域幅)をデジタル化するために、A/Dコンバータによる100MS/sのサンプリング・レートを使用します。DDC、フィルタリングおよび間引き処理によって得られたこの40MHzスパンに対するIとQのレコードは、元のサンプリング・レート半分のである50MS/sでのレコードです。サンプルの総数は変わりません。100MS/sでは1レコードでも、50MS/sの実効サンプリング・レートでは2レコードのサンプル・データが得られます。スパンがより狭い場合はさらに間引き処理が行われ、同数のサンプルに対して、より長時間のサンプルの保存が可能です。ただし、実効サンプリング・レートが遅い場合の不利な点は、時間分解能が低下することです。反対に実効サンプリング・レートが遅いときの利点は、解析演算に必要な時間とメモリ使用量を減少できることです。

間引き処理フィルタ

間引き処理のときにもナイキスト定理に従うことが必要です。デー タ・レートが2の係数で減少すると、デジタル信号の帯域幅も2の 係数で減少します。これは、エイリアシングを防止するため、サン プリング・レートを減少させる前にデジタル・フィルタで行われな ければなりません。当社のRTSAでは、多種類の間引き処理を使用 しています。各間引き処理は、デジタル・フィルタを通った後にサ ンプル数を減少させています。間引き処理とフィルタリングのその 他の利点は、バンド幅の減少でノイズも減少できます。ノイズの減 少は、処理利得(Processing Gain)とも呼ばれます。

時間領域波形から周波数領域波形への変換

フーリエ解析とも呼ばれるスペクトラム解析は、入力信号の各周波数成分を周波数ごとに分割します。一般的なスペクトラム・アナライザは、周波数に対する個々の周波数成分のレベルをプロットして表示します。プロットの開始周波数と終了周波数の差がスパンとなります。図2-6に示すように、DFTを繰り返して行うときは入力信号に追従して信号を処理するので、リアルタイムでスペクトラム解析を実行できます。フーリエ変換がリアルタイムの要求に完全には対応しない場合でも、周波数領域における間欠的なトランジェント・イベントの検出、取込みおよび解析に使用できます。

 
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図2-6. DFTベースのスペクトラム・アナライザとバンドパス・フィルタ群を使用した等価図

リアルタイム・スペクトラム解析

リアルタイムと定義できるスペクトラム解析では、測定対象となる スパンのすべての情報を取りこぼすことなく連続して処理しなけれ ばなりません。RTSAは、時間領域信号に含まれるすべての情報を 取込んで、その信号を周波数領域信号に変換します。この動作をリ アルタイムで行うには、次のような信号処理が必要となります。

  • 測定対象となる信号の解析が行える十分な取込帯域幅
  • 取込帯域幅に対するナイキスト定理を超える十分高速なA/Dコンバータのクロック・スピード
  • 最も狭いRBW(分解能帯域幅)に対応する十分長い解析インターバル
  • RBWのナイキスト定理を超える十分高速なDFT変換速度
  • DFTフレームをオーバラップするために必要なRBWのナイキスト定理を超えるDFT変換速度
  • ウィンドウ関数によるオーバラップ量
  • ウィンドウ関数はRBWにより決定

現在のRTSAは、最高リアルタイム取込帯域幅までのスパンでFMT (周波数マスク・トリガ)が行えるので、上述の各項目の要求を満 たすことができます。また、周波数領域のイベントでトリガをかけ ることができるので、設定した取込帯域幅に含まれるすべての情報 が利用できます。

トランジェント・イベントの検出と取込み

高速なフーリエ変換におけるその他のアプリケーションとしては、 周波数領域でまれにしか発生しないイベントの検出、取込みおよび 観測があります。繰り返しのない単発イベントを100%の確率で取 込むために必要な最小イベント幅は、重要な性能の一つです。最小 イベントは、性能で規定された精度で100%の確率で取込むことが できる最も狭い方形波パルスとして定義されます。さらに狭いイベ ントも検出できますが、精度と確率が低下します。トランジェン ト・イベントを検出し、取込んで解析するために必要な項目を以下 に示します。

  • 測定対象となる信号の解析が行える十分な取込帯域幅
  • 取込帯域幅のナイキスト定理を超える十分高速なA/Dコンバータのクロック・スピード
  • 最も狭いRBW(分解能帯域幅)に対応する十分長い解析インターバル
  • 最小イベントを取込んで解析できる十分高速なDFT変換速度

毎秒292,000回以上のスペクトラム測定が行えるRSA6000シリー ズのDPXスペクトラム・モードでは、性能で規定された精度および 100%の確率で10.3μsまでの狭いRFパルスを検出できます。毎 秒50回の掃引ができる掃引型SAでも、性能で規定された精度およ び100%の確率で検出するには少なくとも20ms以上のパルス幅 が必要です。

リアルタイム・スペクトラム・アナライザと掃引型スペクトラム・アナライザ

前のページで説明したように、RTSAはいくつもの優れた機能を持っ ています。測定対象となる通過帯域の信号は、IF信号に変換されデ ジタル化するためダウンコンバートされます。時間領域でサンプル された信号は、I(同相)とQ(直交)のサンプル・シーケンスで構 成されるベースバンド・レコードにデジタル的に変換されます。図 2-6(16ページ)に示すように、DFTはIQレコードの各セグメン トを順次演算し、数学的に表された周波数に変換します。

連続的に等しく配列されたDFTの動作は、入力信号をバンドパス・ フィルタ群を通したことと数学的に等しくなります。その後、各 フィルタの出力で振幅と位相をサンプルします。周波数領域で時間 とともに変化する信号の動作は、図2-7に示すようにスペクトログ ラムとして観測できます。スペクトログラムでは、周波数は水平方 向に、時間は垂直方向にプロットされ、振幅は色別で表されます。 リアルタイムDFTでは、新しいスペクトラムを計算する速度で入力 信号の全スペクトラムを効率的にサンプルします。FFTが動作して いる時間セグメント間に発生したイベントは、検出することはでき ません。RTSAは、ハードウェア・ベースのDFT動作によりデッ ド・タイムを最小にするか取り除くことができ、また最高サンプリ ング・レートでは時間セグメントをオーバラップするように変換で きます。

 
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図2-7. スペクトラム、スペクトログラムおよび掃引
 

反対に掃引型SAは、ある特定の時間には一つの周波数にしか同調 できません。図2-7に示すように、斜線の方向に掃引が行われ周波 数が変化します。斜線は掃引が遅くなるにつれて急角度になり、SA のゼロスパンで単一周波数に同調したときは、垂直方向の直線とし て表示されます。図2-7はまた、シングル周波数ホッピングのよう なトランジェント・イベントを一掃引では検出できないことを示し ています。

リアルタイム・スペクトラム・アナライザのRBW

周波数分解能はスペクトラム・アナライザにとって重要な性能の一 つです。隣接周波数の信号を測定するときは、その信号を識別でき るかどうかは周波数分解能で決まり、その周波数分解能がスペクト ラム・アナライザの性能を決定します。従来のSAでは、IFフィル タ帯域幅あるいはRBW(分解能帯域幅)と呼ばれる性能が、隣接 した信号の識別能力を決定していました。たとえば、振幅が同じで 周波数が100kHzしか離れていない信号を識別するためには、 100kHz以下のRBWが必要となります。

DFT技術を使用したSAでは、RBWはアクイジション時間に反比例 します。同じサンプリング周波数でRBWを小さくするためには、よ り多くのサンプル数が必要です。ウィンドウもまたRBWに影響を 与えます。

ウィンドウ

DFT(離散フーリエ変換)解析の数学的な背景には、処理するデー タは周期的な繰返し信号の1期間であるという前提があります。図 2-8に、一連の時間領域サンプルを示します。たとえば、DFT処理 を図2-8のフレーム2に適用する場合、繰り返し拡張を信号に実行 します。フレームを継続したフレーム間では、図2-9に示されてい るように通常、不連続が発生します。

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図2-8. サンプルした時間領域の3つのフレーム
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図2-9. 1つのフレームを繰り返して拡張することにより発生する不連続

この不連続により、元の信号にはない人工的なスペクトラムが発生します。この現象をスペクトル・リークと呼び、信号の測定が不正確になります。スペクトル・リークは、入力していない信号を出力してしまうばかりでなく、大きな信号に隣接した小さな信号の検出を難しくします。

当社のRTSAでは、ウィンドウ技術を使用してスペクトル・リークの影響を軽減しています。DFT処理を実行する前に、DFTフレームにサンプルごとの同じ長さのウィンドウ関数を掛け合わせます。通常、ベルの形をしたウィンドウ関数により、DFTフレームの最後の不連続を減少あるいは取り除くことができます。

どのウィンドウ関数を選ぶかは、サイドローブ・レベル、等価ノイズ帯域幅および振幅エラーなどの周波数応答特性によって変わります。ウィンドウの形状は、RBWフィルタの有効性にも影響します。

他のSAと同じように、RTSAでもRBWフィルタを選択することができます。RTSAはまた、一般的に使用されている多くのウィンドウ関数の中からも選んで使用できます。直接ウィンドウの形状が規定できれば、特殊な測定を行う際には便利です。たとえば、パルス信号のスペクトラム解析には特別の注意が必要です。ウィンドウ長よりパルス幅が短いときは、DFTフレームの両端に現れるディエンファシスの影響を避けるため、ユニフォーム・ウインドウ(ウインドウなし)を使用します。アクイジション、信号処理、ウィンドウ効果に関連するオーバラップ処理の重要性、およびリアルタイム処理の必要性についてのより詳細な情報は、当社アプリケーション・ノート「リアルタイム・スペクトラム・アナライザのオーバラップ処理について」をご参照ください。

ウィンドウ関数の周波数応答の振幅が、RBWの形状を決定します。たとえばRSA6000シリーズのRBWは、3dB帯域幅として定義され、また次のようにサンプリング周波数とDFTのサンプルに関連付けられます。

 
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Kはウィンドウに関連した係数、NはDFT演算で使用する時間領域のサンプル数、Fsはサンプリング周波数です。ベータ116.7のカイザ・ウインドウでは、kはおよそ2.23になります。RBWのシェープ・ファクタは、60dBと3dBのスペクトラム振幅間の周波数比で定義します。RSA6000シリーズのスペクトラム解析測定では、DFTに必要なサンプル数は、入力スパンとRBWの設定に基づいて式2を使用して計算します。

RSA6000シリーズで使用しているカイザ・ウインドウの時間領域表示とスペクトラム表示を、図2-10と図2-11に示します。このウィンドウは、RSA6000シリーズのスペクトラム解析用の標準ウィンドウです。ブラックマン・ハリス、ユニフォームあるいはハニングなどのウィンドウも選択でき、特殊な測定やその他の測定要求に対応するときに使用します。

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図2-10. カイザ・ウィンドウ(ベータ16.7)の時間領域表示、水平軸は時間サンプルで垂直軸はリニア・スケール
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図2-11. カイザ・ウィンドウ(ベータ16.7)のスペクトラム表示、水平軸は周波数ビン(Fs/N)で垂直軸はdB

リアルタイム・スペクトラム・アナライザのDFT(離散フーリエ変換)

DFTは次の式で定義されます。

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これは、リアルタイム・スペクトラム・アナライザの基本となる式 で、入力シーケンスx(n)から個々の周波数成分x(k)を求めるた めに使用します。DFTはブロックを基本とし、Nは各ブロックある いは各フレームのサンプル数の合計です。入力シーケンスx(n)は、 入力信号x(t)をサンプルしたものです。入力シーケンスはnの整数 で定義しますが、出力はkの連続した関数となり、k=(Nω)/(2π) で表し、ωは角周波数です。X[k]の振幅は、入力シーケンスx(n) の周波数ωにおける周波数成分の振幅を表します。

DFT演算を行うには、FFT(高速フーリエ変換)やCZT(チャープ Z変換)など、いろいろな効率的手法があります。実際にどの手法 を選択するかは、アプリケーションの測定要求によって変わってき ます。たとえばCZTでは、FFTに比較して周波数範囲と出力ポイン ト数の選択が広範囲に行えます。FFTでは、適応性が少ない代わり に演算が少なく済みます。RTSAでは、CZTとFFTの両方とも使用 しています。

周波数成分に分解する性能は、DFTの演算手法には影響されずに、入力シーケンスの長さあるいはRBWによって決定されます。

とCZTに対するDFTとの関連性を表すために、サンプルしたCW(連続正弦波)信号を解析してみます。図で表示するため、実数値の正弦波x(t)を入力信号として使用します(図2-12参照)。入力信号X(t)をサンプルしたものがx(n)となります。この場合はN=16で、サンプリング・レートは20Hzです。

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図2-12. 入力信号
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図2-13. 連続して演算されたx(n)のDFT

図2-13は0≦k<NにおけるDFTの演算結果を示しています。Ω>π (f>10Hz)におけるX[k]の振幅は、最初の半分のミラー・イメー ジです。これが実数値の入力シーケンスx(n)の演算結果です。実 際の入力信号を解析するときには、π<Ω<2πの結果は不要とな るか、あるいは演算されません。複雑な入力信号に対しては、0≤Ω <2π(0≤f<20Hz)で結果が求められます。

FFTでは、N個の等間隔に配置された、X[k]の周波数領域サンプルが得られます。X[k]の振幅を図2-14に示していますが、FFTによって得られたサンプルは、X[k]の振幅のピークをサンプルしていないことがあるので注意が必要です。

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図2-14. x(n)のFFT、FFT長=N=x(n)長
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図2-15. x(n)のCZT

CZTでは任意の開始と終了の周波数間で、M個の周波数領域サンプルが得られます(図2-15参照)。CZTは、波形として表示されているDFTの周波数領域出力を変更することはありません。CZTとFFTとの違いは、異なった周波数領域のデータ・サンプルを使っていることです。

CZTを使用する利点は、周波数領域の最初と最後のサンプル周波数 が任意に選択でき、また入力サンプリング・レートに影響されない ことです。FFTの入力サンプリング・レートを任意に設定すること により、FFTの出力はCZTと同じサンプル出力となります。最終的 には両方とも同じになります。どちらを選ぶかは、測定方法、測定 要求および入手可能な計測器によって変わりますが、最適なソリュー ションを選ぶことが重要です。

デジタル・フィルタ

FIR(有限インパルス応答)フィルタ

周波数フィルタは、周波数を選択するかあるいは除去する目的で、多くのアプリケーションで使用されます。従来のフィルタはアナログ回路素子(RLC)で構成していましたが、現在ではDSPによる演算で、周波数成分の増幅や減衰が選択で きるようになっています。一般的な演算手 法としては、FIR(有限インパルス応答)フ ィルタがあります。RTSAは、FIRフィルタ の機能を拡張して使用しています。通常の 信号処理アプリケーショでは、特定の周波 数バンドを通過させるか、あるいは除去す るときにFIRフィルタを使用しますが、アナ ログ信号経路での劣化を調整するときにも FIRフィルタを使用します。FIRフィルタは、 工場での保存校正データとフィルタ内部で生 成したアライメント・データとを組み合せ て校正され、アナログとデジタルが混在し た信号経路で、平坦な振幅特性とリニアな 位相特性が得られるよう、アナログ信号経 路の周波数応答を補正する応答特性を持っ ています。

周波数応答とインパルス応答

フーリエ変換の理論では、周波数領域と時 間領域は等価であると述べられています。さ らに、周波数領域でデバイスの振幅と位相 の応答特性として表すことができる伝達関 数は、時間領域でのそのインパルス応答と 等価であるとも言えます。FIRフィルタは、 フィルタが持つ伝達関数のインパルス応答 をエミュレーションします。伝達関数は、有 限の時間幅を持った離散時間近似値で表し ます。次に、フィルタのインパルス応答で、 入力信号の畳み込みにより信号のフィルタ リングを行います。

図2-16はローパス・フィルタの伝達関数の振幅を示し、図2-17はそのインパルス応答を示しています。

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図2-16. ローパス・フィルタの周波数応答
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図2-17. 図2-15のローパス・フィルタのインパルス応答

畳み込み(コンボリューション)

周波数領域は、フィルタなどのリニアなシステムの応答特性を解析 するときによく使用します。信号は、周波数成分として表します。 フィルタ出力での信号スペクトラムは、入力信号スペクトラムを フィルタの周波数応答で乗算することにより計算できます。図2-18 は、周波数領域における動作を示しています。

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図2-18. フィルタとその周波数応答との乗算
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図2-19. 時間領域での畳み込みは周波数領域の乗算に等しくなる

フーリエ変換理論では、周波数領域での乗算は時間領域での畳み込 みと等価であると述べています。図2-18に示す周波数領域での乗 算は、図2-19で示すインパルス応答を持ったフィルタと、入力信 号の時間領域での畳み込みに等しくなります。

周波数フィルタはすべて、メモリ素子を使用しています。アナロ グ・フィルタで使用しているコンデンサやインダクタなどのリアク タンス素子は、メモリ機能を持っています。それは時間的に前のポ イントの入力と同じように、回路の出力は時間的には前の電流入力 に依存しているからです。離散時間フィルタは、図2-20に示すよ うに実際のメモリ素子で構成されています。

 
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図2-20. 離散時間畳み込み
 

下位のレジスタは、右側の時間的に前のサンプルと、左側の後のサ ンプルを持ったフィルタのインパルス応答を保存します。上位レジ スタは、入力信号をクロック・サイクルごとに1クロックずつ左か ら右にシフトさせるために使用します。各々対応するレジスタの内 容をまとめて乗算し、乗算したすべての結果をクロック・サイクル ごとに合計します。合計した結果が、フィルタを通った信号となり ます。

このようにRTSAは、デジタル信号処理によってほとんどのスペクトラム解析を実行しています。以下の項目がRTSAで使用しているDSPの主な特徴です。

  • RSA6000シリーズは、スペクトラム表示するためにFFTとCZTを併用しています。
    • FFTでは、効率的な演算により高速な変換速度が得られ、またCZTではより適応性が広く、固定の入力サンプル数のフレームで可変RBW(分解能帯域幅)が得られます。
    •  RBWの形状は、フーリエ変換を実行する前に、時間領域の信 号に最適なウィンドウ関数を適用することにより決められます。 RBWはアナログの帯域幅と同じように、3dB帯域幅とシェー プ・ファクタ(60dB:3dB)で規定します。デジタル的に構 成したフィルタのシェープ・ファクタは、アナログのフィルタ に比べて一般的に小さく(急峻に)なっているので、振幅差が 大きく隣接した信号の識別が可能な分解能が得られます。
  • その他のシェープ・ファクタは、ウィンドウ関数を最適化して応用するような特殊なアプリケーションに使用します。

RSA3000Bシリーズでは、以下項目を組み合せてスペクトラム解析を実行しています。

  • スペクトラム・モードでは、アナログ式SAと同じように、ウィン ドウ化したFFTの結果と、RBWのシェープ・ファクタとの畳み 込みを行い、設定したRBWのスペクトラム・トレースを得てい ます。この処理では、RSA6000シリーズの4.1:1に比較して わずかに広い、約5:1のシェープ・ファクタが得られます。
  • DPXモードでは、分解能帯域幅に柔軟性を持たせるためにCZTを使用します。
  • RTSAモードでは、従来のFFT解析方式、すなわちノイズ帯域幅で規定したウィンドウFFTを使用しています。ノイズ帯域幅は、RBWよりも約6%(0.25dB)広くなります。

このセクションで説明したように、RTSAに必要な高速変換レート を実現するには、デジタル的な補正とフィルタ機能が重要となりま す。次のセクションでは、RTSAのユニークな表示機能であるデジ タル・フォスファ・スペクトラム表示機能により、このフィルタが 実際に動作している状態を観測します。

 
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図2-21. a)掃引型スペクトラム・アナライザによる120秒後のマックスホールド・トレースと、b)当社リアルタイム・スペクトラム・アナライザによる20秒後のDPXビットマップ・マックスホールド・トレースの比較
 

DPX®技術:信号検出の画期的ツール

当社特許のDPX(デジタル・フォスファ)技術により、従来のスペ クトラム・アナライザやVSA(図2-21)では見落としていた信号 が検出でき、信号の詳細を観測できます。実際のRF信号を生の動 画のように表現するDPXライブ・スペクトラム表示により、今まで 観測できなかった信号を瞬時に表示できるので、問題の発見と診断 に要する時間を大幅に短縮できます。DPXは、当社RTSAのすべて の機種に標準で装備されている機能です。

デジタル・フォスファ表示

「デジタル・フォスファ」という言葉は、テレビ、コンピュータ・ ディスプレイ、テスト機器などで使用しているブラウン管(CRT) の内側にコーティングされている蛍光体(フォスファ)に由来して います。ブラウン管内の電子ビームは、入力波形で直接制御します。 電子ビームが蛍光体に衝突すると発光し、電子ビームが通過した軌 跡が明るく光ります。

奥行きが短く、低消費電力などの特長により、従来のCRTは多くの アプリケーションでLCD(液晶ディスプレイ)に置き換えられつつ あります。しかし、CRTの蛍光体コーティングとベクタによる描画 の組み合せには、いくつかの利点があります。

パーシスタンス:電子ビームが通過した後も蛍光体は発光を持続し ます。一般に、蛍光体の発光は短時間に消えてしまうので、残光し ていることに気づきません。しかし、残光が短過ぎて見ることがで きない場合でも、多少のパーシスタンス(残光)があれば、人間の 目はイベントとして検出することができます。

頻度:電子ビームが蛍光面を通過する速度が遅いほど明るく表示さ れ、電子ビームが頻繁に当たる部分も明るく表示されます。このZ 軸(輝度)情報は、肉眼で直感的に識別できます。すなわち、波形 の明るい部分は頻繁に発生するイベントか、あるいは電子ビームが ゆっくりと移動しているときで、また暗い波形は発生頻度が少ない か、または電子ビームが高速に移動しているときであることがわか ります。DPX表示では、色彩と輝度によってこのZ軸情報を表し ます。

パーシスタンスと頻度は、信号をデジタル化しLCDで表示する機器 にとっては、本来関係のないものでした。当社が開発したデジタ ル・フォスファ技術は、可変パーシスタンスCRTが持つアナログの 利点をさらに改善して、最高性能のオシロスコープとRTSAに装備 されています。輝度階調、選択可能なカラー・スキーム、統計的な 波形表示など、デジタル化のもたらす機能強化により、より多くの 情報を短時間に処理することができます。

DPX表示エンジン

DPXによる毎秒数千回のスペクトラム測定を1画面に圧縮して、生 の動画のように見える速度で更新するというのが、RTSAのDPX技 術の機能を極端に簡略化した表現です。毎秒数千回の取込みを実行 し、スペクトラムに変換します。間欠的に発生するイベントの検出 には、この高速な変換レートが重要となります。しかし、液晶表示 ではあまりにも高速で対応できず、肉眼でも認識できません。そこ で、取込んだスペクトラムを高速でビットマップのデータベースに 書き込み、その後、観測可能なレートで画面に転送します。ビット マップ・データベースは、波形の振幅を表す行と、周波数軸のポイ ントを表す列にスペクトラム・グラフを分解し、頻度データを持っ たグリッドとして表示します。グリッドの各セルには、入力するス ペクトラムによってヒットする回数を記録します。このヒット回数 をカウントすることでデジタル・フォスファの頻度測定を行うため、 通常の信号やバックグランド・ノイズと、まれにしか発生しないト ランジェント信号を区別することができます。

 
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図2-22. 左図は1回目で、右図は9回目までの3次元ビットマップ・データベース表示例。各列の合計ヒット数は同じになる
 

RTSAの実際の三次元データベースは、数百の列と行で構成されて いますが、ここでは便宜上、11×10の配列を使用しながら、デー タベースの動作について説明します。図2-22の左図は、1回目の スペクトラムがデータベースのセルにデータとしてマッピングされ た様子を示しています。空白のセルにはゼロの値が入っており、こ れはスペクトラムのデータがまだヒットしていないことを意味し ます。

 
発生回数 カラー
0
1
2 水色
3 シアン
4 青緑
5
6
7
8 赤橙
9
 

右図は、さらに8回のスペクトラム変換を実行した後、簡易データ ベースのセルに記録した値を示しています。9回のスペクトラム変 換のなかで、1回は信号がないときに計算されていますが、これは ノイズ・フロアの連続した"1"の値から判断することができます。発 生回数をカラー・スケールにマッピングすると、記録したデータは 直感的なビジュアル情報になります。この例で使用するカラーマッ ピング・アルゴリズムを、図2-23に示します。暖色系の色(赤、オ レンジ、黄)は、発生頻度が高いことを示しています。同様に輝度 諧調表示も使用されます。

 
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図2-24. 簡易データベースのカラー・コディングによる色温度ビットマップ表示例(左図)と、スペクトラム・ビットマップによる実際のDPX表示(右図)
 

図2-24の左図は、9回のスペクトラム変換によってデータベース のセルに書き込んだ回数を、カラー・スケールで表した例です。こ の右図にあるように、画面のピクセルごとに色分けしたセルを対応 させることで、優れたDPX表示を実現しています。

パーシスタンス

たとえばRSA6000シリーズでは、毎秒292,000回を超えるスペ クトラムをデータベースに入力します。14,600回あまりの入力ス ペクトラム(毎秒およそ20回)の各フレームの終わりで、ビット マップ・データベースは、表示前の必要な処理のために転送されます。 次に、再び新しいフレームのデータがビットマップに入力されます。

DPXエンジンでパーシスタンスを実現するため、新しいフレームの 開始時にビットマップのデータベースのカウントをクリアするので はなく、既存のカウントを残したまま新しいスペクトラムを追加し ます。フレームのすべてのカウント値を加えていくときは、“無限 パーシスタンス”となります。書き込んだカウントの一部を次のフ レームに持ち越すのが“可変パーシスタンス”になります。持ち越 す数を調整することで、データベースから信号イベントが徐々に消 えて、完全になくなるまでの時間を設定できます。

DPXが動作しているときに、1回だけしか発生しない信号について 考えてみます。さらに、この信号は1つのフレームの14,600回の スペクトラムすべてに存在し、可変パーシスタンスにより、各フレー ムの後25%減衰するとします。影響を受けるセルは14,600の値 でスタートします。1フレーム後、発生回数は10,950になります。 次のフレームでは8,212になり、完全に見えなくなるまでこの値は 小さくなります。画面上では、最初は信号周波数における明るいス パイク波形として表示されます。そして、信号が発生した部分は 徐々に消えていきます。この間、消えて行く信号よりも低いノイズ・ レベルのピクセルは明るくなり始めます。最後に、ベースラインだ けが表示されます(次ページの図2-25参照)。

 
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図2-25. 可変パーシスタンス表示により、DPXによって取込んだ短時間のCW信号は、設定した時間消えずに残る
 

パーシスタンス機能は、マックスホールドの持つすべての特長と、 それ以外の機能も持った非常に優れたトラブルシューティング・ ツールです。間欠的な信号や、まれにしか発生しない周波数または 振幅のシフトを検出する場合は、まずRTSAを無限パーシスタンス に設定して放置しておきます。しばらくすると、各周波数ポイント の最も高いレベルだけでなく、低いレベルやその間のレベルも表示 されます。信号トランジェントや障害となる信号の存在が確認でき たならば、可変パーシスタンスに設定して問題の詳細を観測します。

統計的な波形表示

DPXスペクトラム表示では、カラーによるビットマップ波形を表示 でき、また統計的な波形表示も可能です。データベースには、各周 波数の列に記録した最大値、最小値、平均値の振幅値が保存されて います。この値を使った検出機能が、正ピーク、負ピーク、平均で す(図2-26参照)。

 
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図2-26. 検出波形例、正ピーク検出(左図)、負ピーク検出(中央図)、アベレージ検出(右図)
 

正ピークと負ピーク波形では、信号の最大値と最小値を瞬時に表示 します。平均検出では、各周波数ポイントにおける信号の平均値を 検出します。これらの波形はリファレンス波形として保存し、呼び 出すことができます。

通常のSAによる波形表示のように、DPXの波形表示でもマックス ホールド、ミニマムホールド、アベレージ波形のような蓄積機能が あります。DPXの正ピーク波形は、通常のSAのマックスホールド 波形とほぼ同等機能ですが、大きな違いはDPXの波形更新レートが きわめて高速であるという点です。

DPX変換エンジン

それでは、これらのスペクトラムはどのようにして生成されるので しょうか。DPXエンジンでは、ソフトウェアによるバッチ処理と並 列に、同じIQデータ・ストリームを使用した連続したリアルタイム 信号処理用に、ハードウェア・ベースの計算エンジンを装備してい ます。このサブシステムは、パワー・レベル・トリガ、周波数マス ク・トリガなど、時間が重要な要素となる機能をサポートします。 また、DFT(離散フーリエ変換)を高速に実行し、DPX表示シス テムで使用する毎秒292,000回以上のスペクトラムを生成します。

DPX Density測定

密度は、設定した測定期間内で、DPXスペクトラム・ビットマッ プの特定エリアに信号が存在する時間を測定して求められます。ク リーンな連続正弦波の密度は100%になり、1msごとに1μsオン になるパルスの密度は0.1%になります。

タイミングとトリガ

リアルタイム処理によるDPX表示を備えたRTSAは、検出ツールとして最適です。DPXDensityトリガにより、測定信号の特性がまったく分からない場合でも、正確な振幅-周波数範囲内で信号が識別できます。当社特許のDPX技術の拡張機能の詳細については、入門書「リアルタイム・スペクトラム・アナライザにおけるデジタル・フォスファ技術の基礎 」をご参照ください。

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図2-27. Densityトリガの例。左図:フリーランのDPXスペクトラム表示では、周波数が変化しているパルスが表示されている。時折、幅の狭いパルスが発生しているようだが、Run/Stopボタンの操作だけでは捉えることが難しい。右図:トリガのかかったDPX表示では、トリガされていない表示では見つからない低振幅のパルスが表示されている。ユーザ定義のボックスで測定された平均密度が50%を超えた場合にトリガするように設定されている
 

ただし、DPX表示では時間領域の記録はできないため、マルチドメイン解析はできません。信号を取込んで解析するには、信号をメモリに記録することが必要であり、また波形の解析対象となる部分を選択できることが必要です。このセクションでは、図2-28(RSA6000シリーズ)に示すように、RTSAのトリガ、アクイジションおよび解析範囲の設定について説明します。

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図2-28. RSA6000シリーズの時間オーバビューでのスペクトラム長と、マルチドメイン解析長の設定例
 

タイミングのコントロールとトリガを併用すると、トランジェント(過渡的現象)やタイミングに関連するパラメータを解析するのに最適な組み合わせとなります。アクイジション長の設定は、トリガがかかってサンプル・データがメモリに保存され始め、そしてサンプルが終了するまでの時間の長さを指定します。

アクイジション・ヒストリは、新しいトリガの発生後に以前のアクイジションをいくつ残すかを決定します。当社のRTSAでは、時間領域のオーバビュー・ウィンドウにアクイジションの全体長を表示します。

スペクトラム長は、スペクトラム表示が計算される時間の長さを決定します。スペクトラム・オフセットは、トリガがかかってからフレームの開始位置までの遅延または先行する時間を決定します。スペクトラム長とスペクトラム・オフセットの時間分解能は、どちらもフレーム1つ分です。RSA3000シリーズは固定長を使用していますが、多機能で高性能なRSA6000シリーズでは、スペクトラム表示の長を1ポイント単位で可変することができます。当社のRTSAでは、時間領域のオーバビュー・ウィンドウの下側に位置するカラー・バーを使用して、スペクトラム・オフセットとスペクトラム長を表示します。カラー・バーの色は、関連する表示にも適用されます。

解析長は、変調解析やその他の時間に関連する測定を行う時間の長さを決定します。解析オフセットは、トリガがかかってから解析の開始点までの遅延または先行する時間を決定します。当社のRTSAでは、時間領域のオーバビュー・ウィンドウの下側に位置するカラー・バーを使用して、解析オフセットと長さを表示します。カラー・バーの色は、関連する表示にも適用されます。

出力トリガ・インジケータによって、トリガがかかったときに後部パネルのTTL出力をオンにすることができます。この機能は、オシロスコープやロジック・アナライザなど他の機器とRTSAを同期させて測定するときに使用できます。

リアルタイム・トリガとアクイジション

RTSAでは、時間、スペクトラムおよび変調解析が行えます。トリガは、時間領域のイベントを取込むときには不可欠です。RTSAは、独自のトリガ機能を備えており、通常の外部トリガやレベル・トリガはもちろんのこと、パワー・トリガやFMT(周波数マスク・トリガ)も用意しています。

もっとも一般的なトリガ・システムは、ほとんどのオシロスコープで使用されているものです。従来のアナログ・オシロスコープでは、測定信号は信号用入力に接続し、トリガは別のトリガ入力に接続します。トリガ・イベントにより水平掃引が開始され、信号の振幅は垂直方向の変化量として校正された目盛上に表示されます。もっとも簡単な方式では、図2-29に示すように、アナログ・トリガによりトリガの後に発生したイベントを観測することができます。

 
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図2-29. 従来のオシロスコープでのトリガ
 

デジタル・アクイジションを採用したシステムでのトリガ

信号をデジタルで処理して表示する機能と、大容量メモリとの組み 合せにより、トリガ後はもちろんのこと、トリガ以前に発生したイ ベントの取込みが実現できます。

RTSAで使用しているデジタル・アクイジション・システムでは、 A/Dコンバータにより入力信号を時間サンプルして大容量メモリに 保存しています。理論的には、新しいサンプルを連続してメモリに 保存し、最も古いサンプルから順次削除していきます。図2-30の 例は、N個のサンプルを保存するように設定したメモリを示してい ます。トリガがかかるとアクイジションが停止し、メモリの内容が 固定されます。トリガ信号の経路に可変遅延回路を追加すると、ト リガ後に発生したイベントはもちろん、トリガ以前に発生したイベ ントも取込むことができます。

 
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図2-30. デジタル・アクイジション・システムでのトリガ
 

遅延がない場合を考えてみます。トリガ・イベントにより、トリガ と同時のサンプルを保存した直後にメモリを固定します。メモリに は、トリガ時のサンプルからトリガ以前に発生した「N」個のサン プルが保存されています。トリガ以前のイベントのみ保存されてい ます。

では次に、遅延がメモリ長と正確に一致するように設定された場合 を考えてみます。トリガの発生後、「N」個のサンプルはメモリが固 定される前にメモリ内に保存することができます。これでメモリに は、トリガ後の信号のサンプルを「N」個保存していることになり、 結果的にトリガ以後のイベントのみ保存することになります。

メモリ長以内に遅延を設定した場合は、ポストトリガ・イベントと プリトリガ・イベントのどちらも取込むことができます。遅延をメモリ長の半分に設定した場合、保存したサンプルの半分はトリガ以 前のもので、残りの半分はトリガ後のサンプルとなります。この方 法は、従来の掃引型SAのゼロ・スパン・モードで使用するトリガ 遅延と似ています。ただしRTSAでは、より長時間の信号サンプル を取込むことができ、またこの信号データを周波数領域、時間領域、 および変調領域で解析することができます。RTSAは、信号の監視 やデバイスのトラブルシューティングなどのアプリケーションに強 力なツールとなります。

トリガ・モードとその特長

フリーラン・モードでは、入力したIF信号のサンプルはトリガ条件とは無関係に取込みます。スペクトラムや変調などの測定は、信号を取込んで解析してから表示します。

トリガ・モードでは、トリガ条件や機器の動作に対応したトリガ・パラメータ設定のほかに、トリガ・ソースも必要となります。

連続トリガを選択すると、トリガが発生するごとにアクイジション を繰り返します。シングル・トリガでは、測定が開始されたときに 1回だけアクイジションを実行します。トリガ位置は、0~100% の範囲で調整可能で、アクイジション範囲のどの部分でプリトリガ するかを選択します。10%を選択すると、選択したアクイジショ ン範囲の10分の1をプリトリガ・データとして取込み、10分の9 をポストトリガ・データとして取込みます。トリガ・スロープでは、 立上りエッジ(Rise)、立下りエッジ(Fall)またはそれらの組合 わせが選択できます。立上りと立下りスロープ(Rise and Fall) に設定すると、バースト全体を取込むことができ、また立下りと立 上りスロープ(Fall and Rise)に設定すると、連続した信号で一部 分が落ち込んだ信号部分の取込みが可能です。

 

トリガ・ソース トリガ信号 設定の単位 時間の不確定さ
外部 外部トリガ・コネクタ V(可変)またはTTL RSA3300シリーズ:±40ns
RSA3400シリーズ:±20ns
RSA6000シリーズ:±12ns
RSA3000シリーズ: 外部トリガ入力x1
RSA6000シリーズ:外部トリガ入力x2(前面と後部パネル)
パワー・レベル・トリガ 現在のアクイジションBWで計算したパワー パワーまたはフル・ スケールに対するdB ±1時間領域ポイント(実効サンプリング・レートによる) RSA6000シリーズは、トリガに対するユーザ設定可能なフィルタ帯域幅
周波数マスク・トリガ FFTプロセッサの出力でのポイントごとの比較 画面にグラフ表示されたマスクによるdBとHz ±1フレーム長 フレーム長(実効サンプリング・ レートによる)
DPX Densityトリガ ユーザ定義の振幅・周波数エリアと信号密度 画面上に書かれた方形波エリアのdBとHzおよび密度測定パーセント 約50ms RSA6000シリーズOpt. 200
タイムクオリファイ・トリガ 信号のロジック状態とオフセット・タイミングおよび計算されたパワー パワー、dB以下と以上、時間オフセット ±1時間ドメイン・ポイント(有効サンプリング・レートによる) RSA6000シリーズOpt. 200

表2-1. リアルタイム・スペクトラム・アナライザのトリガ源の比較表

外部トリガを使用すると、外部信号でアクイジションを制御できま す。これは通常、測定システムからの周波数スイッチング・コマン ドなどの制御信号です。この外部信号により、測定システムの信号 のアクイジションが開始されます。

内部トリガの設定は、測定信号の特性によって変わってきます。 RTSAは、デジタル化した信号のレベルやフィルタリング、間引き 処理後の信号パワー、あるいは周波数マスク・トリガによる特定の スペクトラム成分でトリガする機能を備えています。トリガ信号源 とトリガ・モードは、周波数の選択、時間分解能およびダイナミッ ク・レンジなど、個々に特長があります。これらの特長を実現する 機能的要素を次ページの図2-31に示します。

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図2-31. リアルタイム・スペクトラム・アナライザのトリガ処理
 

レベル・トリガは、A/D変換によってデジタル化した信号とユーザが設定したレベルとを比較します。フィルタリングと間引き処理が必要な狭いスパンを観測する場合でも、デジタル化した信号の全帯域幅を使用します。レベル・トリガでは、デジタル化するときの最高レートを使用し、最高サンプリング・レートの1サンプルと同程度の短時間のイベントが検出できます。ただし、取込んだデータによる時間分解能は、間引き処理後の実効サンプリング・レートに制限されます。レベル・トリガは、RTSAの何機種かに装備しています。

パワー・トリガでは、フィルタリングおよび間引き処理後の信号パワーを計算してトリガをかけます。IQサンプル(I2+Q2)の各フィルタ・ペアのパワーを、ユーザが設定したパワーと比較します。RTSAの何機種かでは、トリガ信号の帯域幅が選べるフィルタを通してトリガをかけることができるフィルタ・パワー・トリガを用意しています。

DPX Densityトリガは、DPX Density測定と同じ画面上の測定ボックスを使用します。トリガ・システムは、密度測定結果をモニタし、その密度が設定した密度スレッショルドを越えたときにトリガをかけます。

タイムクオリファイ・トリガ は、他のトリガ方式と組み合わせて使用でき、また高速サンプリング・レート時のタイミングの不確かさを持つこれらのトリガ方式に対して、計算されたパワー、信号のロジック状態、オフセット・タイミングを利用することができます。

FMT(周波数マスク・トリガあるいは周波数領域トリガとも呼ばれます)は、スペクトラムの形状とユーザ定義のマスクを比較してトリガをかけます。この優れた技術により、スペクトラム形状の変化でトリガをかけることができます。FMTを使用すると、非常にレベルが高い信号が存在している場合でも、フル・スケールのはるか下に位置する信号を確実に検出できます。パワーの大きい信号の中の小さい信号でトリガをかけることができるこの機能は、間欠的な信号、相互変調歪み、トランジェント・スペクトラムの抑制違反などを検出するためには必要不可欠です。信号とマスクを比較するためには、十分に高速なDFTが必要で、それには抜けのないフレームが必要です。周波数マスク・トリガの時間分解能は、およそ1DFTフレームになります。トリガ・イベントは、図2-31のブロック図に示すように、専用ハードウェアのDFTプロセッサを使用して、周波数領域で判定します。

周波数マスクの作成

他のマスク・テストと同様に、FMTの設定は画面でのマスク定義から始めます。この定義は、周波数ポイントとそのポイントの振幅を用いて行います。マスクはポイントごとに定義するか、あるいはマウスなどのポインティング・デバイスでマスクを描画してグラフィカルに定義することができます。トリガは、マスクより外にある信号がマスク内に入った場合、またはマスク内の信号がマスクより外に出た場合に発生するように設定できます。

図2-32は、通常の信号スペクトラムの通過は許可し、瞬間的な異常は許可しないように定義したFMTを示しています。次ページの図2-33は、信号が瞬間的にマスクを越えた場合にトリガがかかり、その結果信号を取込んだ後のスペクトログラム表示を示しています。図2-34は、信号がマスクを越えた最初のフレームのスペクトラムを示しています。プリトリガ・データとポストトリガ・データを取込んで、両方のデータのスペクトログラムを表示しています。

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図2-32. 周波数マスクの定義
 

図2-32は、通常の信号スペクトラムの通過は許可し、瞬間的な異 常は許可しないように定義したFMTを示しています。次ページの図 2-33は、信号が瞬間的にマスクを越えた場合にトリガがかかり、そ の結果信号を取込んだ後のスペクトログラム表示を示しています。 図2-34は、信号がマスクを越えた最初のフレームのスペクトラム を示しています。プリトリガ・データとポストトリガ・データを取 込んで、両方のデータのスペクトログラムを表示しています。

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図2-33. キャリアに隣接するトランジェント信号を表示したスペクトログラム。カーソルはトリガ・ポイントに設定しているため、カーソル線の上側にプリトリガ・データが、カーソル線の下側にポストトリガ・データを表示。青色の領域の左側にある細い白線は、その部分がポストトリガ・データであることを示す
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図2-34. スペクトログラムの1つのフレームで、トランジェント信号が周波数マスクを越えたときのトリガ・イベントを示す

復調

変調とは、RF信号によって情報を伝える方法のことです。RTSA を使用した変調解析では、送信されたデータを抽出するだけでなく、 変調信号の精度も測定します。さらに、変調品質を低下させるエ ラーや障害を検出してデータ化できます。

最近の通信システムでは、いろいろな変調方式を使用するように なってきました。RTSAは、一般的な変調方式を解析する機能のほ かに、今後現れる可能性のある新しい方式も解析できる構造を持っ ています。

振幅、周波数および位相変調

RFキャリア(搬送波)は、キャリアの振幅または位相の変化に よって情報を伝えることができます。周波数は、位相の時間的な導 関数なので、FM(周波数変調)は、PM(位相変調)の時間的な導 関数になります。QPSK(Quadrature Phase Shift Keying、 四位相偏移変調)は、90度の位相の倍数でシンボル決定ポイント が発生するデジタル変調方式です。QAM(Quadrature Amplitude Modulation、直交振幅変調)は、振幅と位相の両方が同時に変 化して、複数の状態が存在する高次変調方式です。OFDM (OrthoganalFrequency Division Multiplexing、直交周波数分 割多重方式)などの非常に複雑な変調方式の場合でも、振幅と位相 成分に分解することができます。

極座標では、振幅と位相はベクトルの長さと角度として考えること ができます。同様に、デカルト座標系(Cartesian)または直交座 標系(X,Y)でも表現できます。メモリに保存した時間サンプルの IQフォーマットは、水平またはX成分を表すIと、垂直またはY成分 のQを持ったデカルト座標系と数学的に等しくなります。

図2-35は、IQ成分に対応した振幅と位相のベクトルを示していま す。AM復調は、各IQサンプルの瞬時振幅値を計算して、時間に対 してプロットしたものから構成されます。PM復調は、逆正接関数 の±π/2における不連続を考慮して、各IQサンプルの位相角度を計 算したしたものから構成されます。周波数は位相の時間的な導関数 としてFMを計算することができ、FMはPMの時間的な導関数とな ります。

 
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図2-35. 振幅および位相のベクトル表示
 

デジタル変調

図2-36は、一般的なデジタル通信システムにおける信号処理を示 しています。送信処理は、送信データとクロックにより開始します。 データとクロックは、エンコーダによりデータの並び替え、同期 ビットの追加、エンコーディングおよびスクランブルのエラー修復 が実行されます。次にデータをIとQに分割およびフィルタリングし、 ビット・データからアナログ波形に変換します。さらに、割り当て たチャンネルに対してアップコンバートし、空中に送信します。

 
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図2-36. 代表的なデジタル通信システム
 

受信処理は、送信とは逆の手順になり、いくつかの手順を加えます。 RF信号は、IとQのベースバンド信号にダウンコンバートされ、シ ンボル間干渉を除去するためにRxフィルタを通ります。次に信号 は、正確な周波数、位相およびデータ・クロックを復元するための アルゴリズムが実行されます。これは、マルチパス遅延および伝送 路のドップラ・シフトの補正と、RxとTxの局部発信器が通常同期 していないための補正が必要となります。周波数、位相およびク ロックを復元した後は、信号の復調とデコードおよびエラー訂正を 行い、伝送路での信号劣化によって失われたビットを復元します。

デジタル変調には、よく知られているFSK、BPSK、QPSK、 GMSK、QAM、OFDMなど多くの種類があります。デジタル変調 は、チャンネル割り当て、フィルタリング、パワー制御、エラー訂 正および通信プロトコルと組み合わされ、リンクの両端の無線通信 機器間で情報を誤りなく伝送するように、特定のデジタル通信規格 に準拠しています。このように、デジタル通信方式が複雑になるの は、信号が空中や他の媒体を伝播したときに、システムに影響を与 えるエラーや障害を補正することが必要になるからです。

図2-37は、デジタル変調解析で必要となる信号処理手順を示して います。基本的な処理は受信機と同じですが、変調精度の測定だけ は、実際に受信した波形と理想的な変調波形との比較が必要となり ます。RTSAで使用している変調品質測定方法では、復元したシン ボルを、数学的に理想的なIQ信号を再構築するために使用します。 この理想的なIQ信号は、実際の信号または劣化したIQ信号と比較 し、必要な変調解析表示と測定を行います。

 
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図2-37. RTSAの変調解析ブロック図
 

パワー測定と統計処理

RTSAは、周波数領域および時間領域でパワー測定が実行できます。 時間領域測定は、メモリに保存した特定の時間範囲におけるIとQの ベースバンドのパワーを積分することで実現できます。周波数領域 測定は、特定の周波数範囲におけるスペクトラムのパワーを積分す ることで実現できます。チャンネル・パワーを得るために、標準規 格に基づいたチャンネル・フィルタを適用する場合もあります。特 殊な状況下でも精度を維持するため、校正パラメータおよびユーザ 校正パラメータも使用します。

通信標準規格により、部品やエンド・ユーザのデバイスに対して統 計的な測定が必要となる場合があります。RTSAは、信号のCCDF (Complementary Cumulative Distribution Function、相補累積 分布関数)などの統計計算を行う測定ルーチンを備えています。こ のCCDFは、複雑な変調信号のPAR(ピーク・アベレージ比)のよ うな統計的な特性評価に使用します。

リアルタイム・スペクトラム・アナライザ測定

この章では、RTSAの操作モードと測定について説明します。サン プリング・レートやDFTポイント数などの測定解析性能やレコード 長などは、RTSAの機種によって異なります。この入門書で説明さ れているその他の測定例と同様に、この章で説明する内容はRSA 3000BシリーズおよびRSA6000シリーズに対応します。

リアルタイム・スペクトラム・アナライザによる測定の種類

RTSAは、周波数、時間、変調および統計の各領域での測定が行えます。この章では、RTSAの機種ごとに異なる測定性能についても説明します。

周波数領域の測定

この章では、RFのDPXライブ・スペクトラム表示測定、スペクトラム表示測定およびスペクトログラム表示測定など、基本的な周波数領域の測定について説明します。

DPXライブ・スペクトラム測定

DPXライブ・スペクトラム測定は、他のアナライザでは検出できな い、見つけることが難しい信号を検出できるRTSAの優れた機能で す。DPX技術で重要な性能パラメータは、信号イベントの100% POI(Probability of Intercept、捕捉確率)の最小時間幅です。 RSA6000シリーズの特長は、最小10.3μsの信号を検出できる ことです。

DPXスペクトラムは、図3-1に示すように、異なった時間で発生し た同じ周波数帯域を持つ複数の信号を表示できます。また、発生し てすぐに消えてしまうような信号でも、ライブRF表示により、信 号を検出して問題を解決する時間を大幅に短縮できます。RSAシ リーズの一部の機種では、DPXスペクトラム表示のスパンは、リア ルタイム帯域幅で制限されません。DPX掃引は、複数のリアルタイ ム周波数セグメントから構成される通常のスペクトラム表示と同じ ように動作し、波形とビットマップのワイドスパン表示ができます。

 
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図3-1. 異なった時間で同じ周波数帯域に存在する複数信号のDPXライブ・スペクトラム表示
 

スペクトラムとスペクトログラム測定

スペクトラムとスペクトログラムの測定は、メモリに保存したデー タをDFT解析して測定します。これらの測定は、トリガを使用する か、またはフリーラン・モードのどちらかで実行できます。スペク トラムとスペクトログラムの測定結果は、別々に表示されます。た だし、ここでは両測定とも同じデータを使用しており、また時間と 周波数でマーカがリンクしているので、まとめて説明します。

 
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図3-2. スペクトログラム表示
 

図3-2に示すように、スペクトログラム表示は、周波数と振幅が時 間とともにどのように変化するかを直感的に分かりやすく表示でき る重要な測定です。スペクトラム表示と同じように、水平軸は周波 数レンジのスパンを表します。ただし、スペクトログラム表示では 垂直軸は時間を表し、振幅は波形の色で表します。スペクトログラ ム表示の断面は、1スペクトラム長のデータで計算した単一の周波 数スペクトラムに相当します。

 
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図3-3. 時間相関が取れた、パワー対周波数表示(左図)とスペクトログラム表示(右図)
 

図3-3は、図3-2で示しているイラストの信号を、実際にスペクト ラムとスペクトログラムで表示した画面です。スペクトログラム表 示では、最も古いフレームを画面の最上部に表示します。この測定 では、時間とともに周波数が変化するRF信号を表示でき、また時 間ブロックの終わり近くで発生し、消滅したレベルの小さいトラン ジェント信号も表示できています。データはメモリに保存されてい るので、マーカにより、スペクトログラム表示上の時間を移動させ ることができます。図3-3では、スペクトログラム表示のトラン ジェント・イベント上にマーカを設定し、その特定したポイントの 時間に相当するスペクトラムを表示しています。

リアルタイム帯域幅を超えるスペクトラム測定

 
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図3-4. 標準SAモードのマックス・ホールドを使用した、1GHz周波数スパンにおける空中での電波測定結果
 

図3-4で示している標準SAモードでは、従来の掃引型SAによる周 波数領域測定と同じ測定が行えます。機器の持つリアルタイム帯域 幅を超える周波数スパンも、従来のスペクトラム・アナライザと同 様に、対象となるスパンに渡ってRTSAを同調させることにより実 現できます。連続したスペクトラム・アクイジションは、一定間隔 で周波数をステップ同調するごとに行われます。RSA6000シリー ズにオプションのハードウェアを装備することにより、DPX掃引機 能が使用できます。DPX掃引では、最高で14,600個のスペクト ラムで構成されるDPXフレームの各周波数セグメントに一定時間滞 留します。この滞留時間は設定可能で、次のセグメントに移動する まで最高100秒間、各セグメントが観測できます。掃引が各セグ メントに滞留している間、その周波数バンド内の信号干渉確率 (Probability of intercept)は、最少10.3μs幅のイベントを 100%の確率で取込むことができる通常のリアルタイム・スパンと 同じです。ピクセル・ビットマップはセグメントごとに構成され、 周波数セグメントを表示するのに必要な縦列数まで水平方向に圧縮されます。圧縮は、複数ポイントのピクセル密度を平均化すること により行われます。最終的な掃引ビットマップは、掃引しないとき のビットマップと同じピクセル・ビットマップ分解能になります。 波形はセグメント全体で構成され、ユーザが設定した全スパンの波 形ポイント数まで水平方向に圧縮されます。

時間領域の測定

周波数対時間

周波数対時間測定は、垂直軸に周波数、水平軸に時間を表示します。 これは、スペクトログラム表示と同様の結果を示しますが、2つの 重要な相違点があります。周波数対時間表示は、次に詳細に説明す るように、スペクトログラムより数段優れた時間分解能を持ちます。 この測定では、すべての時間ポイントで1つの周波数を計算します。 これは、スペクトログラムのような複数のRF信号の表示は不可能 であること意味します。

スペクトログラムはDFTの結果をまとめたもので、1つのDFTフ レーム長に等しい行ごとの時間分解能を持っています。周波数対時 間表示では、1サンプル間隔の時間分解能を持ちます。1,024の時 間領域サンプルをスペクトラム計算する場合、このモードの分解能 はスペクトログラムの分解能より1,024倍細かくなります。これに より、小さな瞬間的に起きる周波数シフトを、より詳細に観測でき ます。このモードの結果は、周波数弁別器や周波数カウンタのよう に表示されます。各サンプル・ポイントは、スパンが数百Hzか数 MHzであっても、一つの周波数の値を表します。CWまたはAMな どでの一定した周波数の信号は、平坦で水平な表示になります。

 
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図3-5. スペクトログラムと周波数対時間表示の比較
 

周波数対時間表示は、1つの特定の周波数で相対的に強い信号が存 在する場合の測定に最適です。図3-5は、スペクトログラムと周波 数対時間表示を簡単に比較したものです。周波数対時間表示は、ス ペクトログラムの一部を拡大したズームイン表示となります。これ は、周波数のオーバシュートやリンギングなどのトランジェント・ イベントの測定に最適です。測定環境に複数の信号がある場合、あ るいはノイズに埋もれた信号や間欠的に発生する信号の測定にはス ペクトログラム表示が有効です。この表示では、選択したスパンの すべての周波数と振幅の変化を観測できます。

 
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図3-6. 5MHzの周波数と35msの時間範囲で安定する信号のスペクトログラム表示
 

図3-6、図3-7、図3-8に、取込んだ同一信号を3種類の異なる解析 表示で示しています。図3-6に示すように、発信器がオンする時に 周波数の安定性に問題がある送信機からのトランジェント信号を取 込むために、FMT(周波数マスク・トリガ)を使用しています。左 側画面中央の周波数に発信器が同調していないので、RF信号が周 波数マスクを越えてしまい、その結果トリガが発生しています。右 側のスペクトログラム表示は、デバイスの周波数が安定していく様 子を示しています。

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図3-7. 5MHzの周波数と25msの時間範囲で安定する信号の周波数対時間表示
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図3-8. 50kHzの周波数と1msの時間範囲で安定する信号の拡大表示

次の図3-7と図3-8は、同じ信号の周波数対時間表示を示します。 図3-7は25msの解析長を使用して、スペクトログラム表示と同様 に周波数が安定していく様子を示しています。図3-8は、1msの解 析長に拡大表示した結果を示しています。ここではより詳細な時間 領域分解能を使用して、時間に対する周波数の変化を見ることがで きます。これにより、正しい周波数に安定した後でも信号の残留振 動があることを表示しています。

振幅またはパワー対時間

図3-9のパワー対時間表示では、サンプルごとの信号パワーの変化 を示しています。信号の振幅は、対数目盛を使用してdBmでプロッ トされています。この表示は、オシロスコープの水平軸が時間を表 す時間領域表示に似ています。ただし、垂直軸は直線目盛の電圧で はなく、対数目盛のパワーを表しています。RSA3000シリーズの 波形は、スパン内で検出したトータル・パワーを表しています。 RSA6100シリーズでは、フル・スパン帯域幅に加えてユーザ選択 可能なフィルタを用意しています。一定パワーの信号では、時間が 経過してもパワーの変化がないため、平坦な波形表示となります。

 
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図3-9. パワー対時間表示
 

時間領域における各サンプル・ポイントのパワーは、次のように計算できます。

 
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パワー対時間表示は、時間オーバビューでも表示できます。時間 オーバビュー表示は、アクイジション帯域幅すべてのアクイジショ ンのRF振幅を表し、パワー対時間表示は、解析オフセットと解析 長表示によって設定された時間セグメントを表します。

位相対時間

位相対時間は、理論的にパワー対時間と似ています。各IQペアの位相を計算し、その結果を時間の関数として表示します。各IQサンプルの位相は次のように計算できます。

 
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IQ対時間

図3-10に示すトランジェントIQ対時間は、IとQの振幅を時間の関 数として表示するもう1つの時間領域表示です。この測定では、デ ジタル・ダウンコンバータから入ってくる、設定された中心周波数 でのIとQの出力信号を表示します。この表示では、信号が持ってい るいずれの変調に対しても同期されませんが、いくつかのデジタル 復調測定では、同期後のIQ対時間測定が表示できます。

 
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図3-10. 徐々に安定していくトランジェント信号のIQ対時間測定
 

この測定は、周波数エラー、位相エラーや不安定性を深く追求する必要のあるエンジニアにとって、便利なトラブルシューティング・ツールとなります。

変調領域の測定

アナログ変調解析

アナログ復調モードでは、振幅変調(図3-11)、周波数変調(図3- 12)、および位相変調(図3-13)の復調および解析が行えます。 時間領域測定と同様に、マルチドメイン解析が行えるよう、スペク トラムおよび解析ウィンドウを、時間オーバビュー・ウィンドウに 示されているブロック内の任意の位置に配置することができます。

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図3-11. データをエンコードするためにASKを使用したパルス信号のAM復調解析
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図3-12. 正弦波により変調した信号のFM復調解析
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図3-13. 長いバーストで位相の不安定性を示すPM復調解析
デジタル変調解析

デジタル復調解析機能では、PSK(Phase Shift Keying、位相 偏移変調)、FSK(Frequency Shift Keying、周波数偏移変調) およびQAM(Quadrature Amplitude Modulation、直交振幅変調) などで変調したデジタル信号の復調と解析ができます。RTSAは、 コンスタレーション、EVM(変調精度)、振幅エラー、位相エラー、 復調IQ対時間、シンボル・テーブル、アイ・ダイアグラムなど、多様 な測定機能を備えています。これらの測定を実行するには、変調の 種類、シンボル・レート、測定(受信)フィルタの種類、リファレ ンス・フィルタの種類およびRRC(Root-raised cosine)フィル タのロールオフ係数のパラメータなどの変数を正しく設定する必要 があります。

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図3-14. 16QAM信号のEVM解析により明らかになった、正弦波振幅状の歪みを、EVM対時間で右下に表示
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図3-15. PDC信号で位相の不安定性を示すコンスタレーション表示。図の右下は、位相の不安定性を象徴する一定振幅のシンボル・タイミング不良表示
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図3-16. PDC信号でのアイ・ダイアグラ表示

図3-14、図3-15、図3-16に示すように、RTSAは、リアルタイ ム・トリガと時間相関の取れたマルチドメイン解析と、VSAのデジ タル復調測定を組合せることで、ダイナミックな変調信号の特性を 評価できます。

標準規格に基づいた変調解析

RTSAは、W-CDMA、HSDPA/HSUPA、GSM/EDGE、 cdma2000、1xEV-DO、ZigBee、WiMAX、WLAN (IEEE802.11a/b/g/n)などの通信標準規格の変調解析用ソリュ ーションも提供しています。図3-17および図3-18に標準規格に基 づいた変調解析の例を示します。

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図3-17. 閉ループ・パワー制御でのW-CDMA携帯電話機の変調解析コンスタレーション表示(右下)は、レベルが変化する際に発生する大きなグリッチによるエラーを示す。これは、パワー対時間表示(左上)で観測することが可能
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図3-18. 周波数ホッッピングするGSM信号のスペクトログラム、コンスタレーション、EVMおよび位相エラー対時間表示

コード領域の測定

コードグラム表示

RTSAのコードグラム表示(図3-19)は、CDMA通信標準規格の コード・ドメイン・パワー測定に時間軸を追加しています。コード グラム表示はスペクトログラム表示と同様に、時間に伴う変化が直 感的にわかるように表示します。

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図3-19. コードグラム表示の説明図
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図3-20. W-CDMAの圧縮モードのコードグラム測定

この特別なコードグラムは、W-CDMA圧縮モード・ハンドオフのシ ミュレーションを示します。ここでは、データ・レートが瞬間的に 増加して、伝送時に一時的な短いギャップが現れています。この ギャップにより、デュアルモードW-CDMA/GSM装置がW-CDMA ノードBへの接続を維持しながら、利用可能なGSMベース・ステー ションを検索することが可能になります。

図3-20は、RTSAのW-CDMAコードグラム表示を示しています。

統計領域の測定

CCDF(Complementary Cumulative Distribution Function、相補累積分布関数)

CCDF(相補累積分布関数)表示は、測定信号の平均パワーを超え る信号パワーが、水平目盛で表示される振幅を超える確率を表示し ます。水平軸は、平均信号パワーを表すdB目盛です。確率は、垂 直軸に対数目盛でパーセント値とし表示します。

CCDF解析は、時間とともに変化するクレスト・ファクタを測定し ます。このクレスト・ファクタは、CDMAやOFDMを使用する多く のデジタル変調信号にとって重要となります。クレスト・ファクタ は、信号のピーク電圧を平均電圧で割った比率となり、dBで表し ます。

 
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信号のクレスト・ファクタは、信号の歪みを許容範囲に収めるため の送信機または受信機の直線性を決定します。図3-21のCCDF曲 線は、測定信号を黄色で、ガウシャン曲線を青色で示しています。 CCDFとクレスト・ファクタは、増幅器などの電力消費とデバイス の歪み特性とのバランスを取る必要のあるときには特に重要です。 CCDFを、波形上の選択した範囲で使用するときや、ACPなどの歪 み測定の比較に使用するときは、信号の統計的変化が増幅器の出力 でどのように歪みを発生しているかがわかります。

 
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図3-21. CCDF測定
 
時間相関の取れたマルチドメイン解析

信号を取込んでメモリに保存すると、図3-22に示すような、時間相関の取れた各種表示によって信号を解析できます。

 
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図3-22. 各表示上のマーカは、アクイジション・メモリの同じポイントを表す
 

この機能は、特にデバイスのトラブルシューティングと信号の特性 評価に有効です。これらの測定はすべて、同じ時間領域サンプル・ データによって実行されます。この方法には次の2つの重要な構成 上の利点があります。

  • 1回のアクイジションによる周波数、時間および変調の各領域における総合的な信号解析。
  • 時間相関の取れた周波数、時間および変調の各領域における特定イベントの領域間の相関関係。
スペクトラムとスペクトログラム

RTSAは、時間と周波数およびスペクトラムとスペクトログラムの 2つの時間相関の取れた画面を表示します。この2つの画面は、時 間オーバビューと振幅対時間解析とともに図3-22に示します。各 画面上のマーカは、アクイジション・メモリ内の同じポイントに相 当します。

変調領域と時間領域との相関

時間領域解析や変調領域解析などのリアルタイム測定モードでは、図3-23に示すように、RTSAは取込んだ信号を複数の方法で表示します。

 
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図3-23. 時間オーバビュー表示、EVM対時間表示、時間相関の取れたマーカを表示したコンスタレーションとスペクトラム表示
 

図3-23の右下のウィンドウは、全アクイジションの時間オーバ ビュー(パワー対時間)表示です。このオーバビューでは、ブロッ ク内で取込んだすべてのデータを表示するので、他の解析ウィンド ウの指標となります。

 
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図3-24. スペクトログラム、パワー対周波数およびパワー対時間を表示したマルチドメイン表示
 

図3-24の右上のウィンドウでは、左上のスペクトログラムの1フ レームのスペクトラムまたはパワー対周波数を表示しています。図 3-23の画面と同様に、このウィンドウでは1つのフレームのデー タをスペクトラム表示し、時間レコード全体をスクロールして任意 の時間ポイントにおけるスペクトラムを表示できます。この操作は、 スペクトラム・オフセットを調整することで実行できます。またス ペクトラム・ウィンドウの周波数領域表示画面に対応する時間の位 置を示す紫色のバーが、スペクトログラム・ウィンドウに表示され ます。

画面下半分のウィンドウ(緑色の輪郭線)には、選択した時間または変調解析の測定結果が表示されます。

図3-23はQPSK変調解析例を示し、図3-24は過渡的なパワー対時 間解析例を示しています。緑色の解析ウィンドウは、時間オーバ ビュー・ウィンドウに表示される時間レコード内の任意の場所に配 置でき、同じ緑色のバーでその位置が示されます。また解析ウィン ドウの幅と位置は、解析長と解析オフセットのコントロールにより 調整できます。

リアルタイム・スペクトラム・アナライザを使用したアプリケーション

今日のRF/マイクロ波の世界では、デジタル・コンピューティン グと従来のアナログRF技術とが融合しています。このデジタルと アナログが統合されたRFでの測定環境は非常に複雑なものとなり、 RF/マイクロ波の新しい世代のテスト・ツールが必要になります。 当社は、RF/マイクロ波設計時の問題点の解決に必要な信号生成 や解析機能を提供しています。リアルタイム・スペクトラム・アナ ライザを使用したアプリケーションについての最新情報は、当社ホー ムページをご覧ください。

パルス測定

RTSAはパルス測定に最適で、自動パルス測定ソフトウェアが全機 種で装備可能です。機種によっては拡張解析機能が備えられ、また パルス・トレンド情報(測定値のトレンド)を選択できます。従来 のSAと違ってRTSAでは、システム立上り時間/立下り時間(各 10ns)、最小パルス幅(最小50ns)、110MHzまでの変調帯域幅 の各性能を規定しています。より高速な立上り時間やパルス測定、 あるいはより広変調帯域の測定には、RTSAのオフライン・ソフト ウェアと当社のDPO70000シリーズおよびDSA70000シリーズ を組み合せて使用することにより、20GHzまでの周波数帯域で自 動パルス測定が可能です。

オシロスコープのアクイジション・エンジンに組込まれている SignalVuは、RSA6000シリーズ・スペクトラム・アナライザと 同様なユーザ・インタフェースを持ち、オシロスコープのすべての 機能とメモリを使用することができます。

立上り時間、立下り時間、ドループ、リップル、占有スペクトラム、 パルス幅などのキャリア周波数のパルス情報は、パルス測定解析ソ フトウェアで測定して特性評価が行えます。

パルス・トレンド統計情報には、PRF、デューティ・サイクル、パ ルス間位相の各情報が含まれます。RSA6000シリーズは統計情報 をグラフとして表示し、また測定結果統計をFFT処理することによ り、対象機器の診断情報が得られます。

レーダ

パルスの時間領域と周波数領域の測定を1つの機器にまとめること により、レーダ・テストが簡単に行え、また試験効率を改善できま す。RTSAは、レーダ送信機テスト解析に必要な測定機器(オシロ スコープ、スペクトラム・アナライザ、ベクトル・アナライザ、パ ワー・メータ、ピーク・パワー・メータ)を置き換えることができ る測定能力を持っています。またDPXでは、他の機器では検出でき ない干渉信号や機器の非直線性を表示できます。

RTSAによるレーダ・テストについてのアプリケーション・ノートや技術文書を各種用意しています。

RFID

RFIDシステムは、さまざまなアプリケーションに使用されていま す。携帯電話での代金決済や情報交換に使用されているトランザク ション用NFC(短距離無線通信)、車の安全性を高めるため、最近 法制化されたTPMS(タイヤ空気圧モニタ・システム)、品物のト ラッキング用、あるいはEPC Globalによる商品のアセット・トラッ キング用のRTLS(リアルタイム・ロケーション・システム)など があります。RFIDシステムは、HF(135KHz)からマイクロ波 (2.4GHz)までの周波数で、パッシブおよびアクティブ・モード のさまざまパワー・レベルで動作します。多くのRFIDシステムは、 無線局免許の不要なISM(Industrial Scientific and Medical) バンドで動作しますが、ただし他のRFIDシステムや同じバンドで 動作する通信機器との干渉に影響されやすくなります。

RTSAは、産業用、国際的および専用のRFID標準規格のほとんど をサポートしています。タグとリーダ/ライタの性能と相互動作の 測定にRTSAを使用すると、素早く簡単で再現性の高い測定の設定 ができ、また信号をロング・メモリに取込むことができます。

スペクトラム管理とサーベイランス(監視)

設備の安全性を高め、また使用周波数帯を保護するためには、干渉 をできるだけ軽減する必要があります。高レベル信号中に存在する 低レベルで間欠的な干渉信号の検出や、突発的なノイズの特性評価 は、通常のスペクトラム・アナライザではほとんど不可能です。

ライブRF表示ができるDPXは、今まで存在さえ気がつかなかった 信号を観測することができます。RTSAにより、見つけることの困 難な信号を探し出して検出できるようになります。業界をリードす る取込周波数帯域とダイナミック・レンジ性能を持ったRTSAは、 測定対象バンドの信号を100%の確率で検出できることを規定して いる唯一のスペクトラム・アナライザです。

DPX DensityトリガやFMT(周波数マスク・トリガ)などの優 れたトリガ機能により、低レベル信号やインパルス信号に対して 100%の確率でトリガをかけて検出し解析できます。

無線通信

最新の無線通信では、ますますソフトウェアによってコントロール と操作が行われるようになってきています。変調の動的動作、パ ワー、チャンネル制御、チャンネル・ローディングなどのアナログ 機能は、デジタル回路に置き換わりつつあります。最新の無線通信 では、パワー、周波数、変調、コーディング、統計などを瞬時に切 り替えることができます。

時間解析領域と周波数解析領を切り替えなくても観測できるよう、 RTSAでは時間相関の取れたデータを、時間、周波数、変調、コー ドおよび統計のマルチドメインで解析できます。信号を一度取込ん だ後は、その信号データにより各種解析が可能となります。

DPXライブ・スペクトラム表示機能とFMTの組み合せは、無線通 信のデバッグに強力なサポート・ツールとなります。DPXでは、ソ フトウェア障害や低レベル・スペクトラム・ノイズによるインパル ス・ノイズなど、間欠的なトランジェント・イベントを検出でき、 FMTではそのトランジェント・イベントでトリガをかけることがで きます。FMTと外部トリガ出力を併用すると、他の機器に対してト リガをかけることができます。オシロスコープやロジック・アナラ イザにトリガをかけることで、回路の詳細まで入り込んでイベント を検出でき、問題の根本原因を識別できます。当社のiView機能や ミックスド・シグナル・オシロスコープは、ピコ秒精度を持つアナ ログとデジタルの信号に対して、正確な時間測定や表示が行えます。 ソフトウェア・コードのサブルーチンやラインは、実際に取込んだ スペクトラム・イベントとの時間相関を取ることができます。

パワー・アンプのテスト

移動無線通信の音声通信は、比較的安定した状態のトラフィックで 動作します。高速データ・サービスが可能なHSDPA/HSUPA、 1xEV-DO、WiMAXなどの最新の無線通信規格では、出力電力は 急激に変化する負荷に対応しなければなりません。変調品質、スペ クトラムの漏洩、パワー効率はアンプの設計時には常に問題とな ります。

高効率化、高性能化およびコスト削減の必要性によるリニアライ ゼーションの改善によって、適応型DPD(デジタル・プリディス トーション)などを使用したデジタル技術が、携帯電話のアンプ設 計には一般的になっています。アンプ設計時には、メモリ効果、バ イアス・フィードスルーおよびその他のトランジェント・スペクト ラムの再生障害に注意する必要があります。

メモリ効果を見つけだすことができるDPXライブ・スペクトラム表 示を持ったRTSAは、アンプ設計に最適です。また時間相関の取れ た振幅統計、変調品質、隣接チャンネル・パワーの解析が行える RTSAは、アンプ設計には欠かすことのできない機器となっています。

マイクロフォニックと位相跳躍(Phase-Hits)解析

マイクロフォニックと位相跳躍問題は、開発プログラムを中断させ、 製造ラインをストップさせてしまうと言われています。最新の通信 システムやエレクトロニクス機器はより小型化されているため、機 器内部で発生する予測できない変調(信号変動)に対しては、影響 を受けやすくなっています。従来、この間欠的に発生する障害イベン トの検出と識別は、非常に時間のかかる作業でした。

最高で毎秒48,000回のスペクトラム更新ができるDPXライブ・ スペクトラム表示により、RTSAはこのイベントを確実に検出でき ます。問題の根本原因解決のための検出、特性評価、測定、時間相 関は、FMT(周波数マスク・トリガ)と外部トリガ出力を組み合せ ることで、より簡単に実現できます。

EMI/EMC

EMC(電磁適合性)測定には、設計、検証、規格適合試験の各段 階で、適切な測定機器と測定技術が必要です。多くの高性能電子デ バイスは、業界、国内および国際的な適合性規格で規定される一方、 その規格以上の性能を持っていることを実証するためのテストが必 要です。低レベル・ノイズや内部インパルス・ノイズに対する耐性、 あるいはクロックとフェーズ・ロック・ループの安定性などによる 性能への影響を少なくするためには、適切なデバイス性能やRF製 造技術が必要となります。デジタル技術の導入により現在の電子デ バイスの取り扱う信号は、複雑化し短時間の現象や急激に変動する ことが多くなってきています。従来の測定機では取込むことが困難 なこのようなイベントに対して、多くの機能と優れた性能を持つ当 社のリアルタイム・スペクトラム・アナライザなしでは、測定が難 しくなっています。

リアルタイム・スペクトラム・アナライザ製品

高度な信号解析が可能なテクトロニクスのリアルタイム・スペクトラム・アナライザをご紹介します。

RSA306B型USBスペクトラム・アナライザ

Tek-rsa306b_03a_h

RSA306B型USBスペクトラム/シグナル・アナライザは、小型・軽量でありながら、優れた性能を備えています。お客様が2倍のサイズで2倍の価格のスペクトラム・アナライザに求めてきた機能を搭載しています。さまざまな測定にご活用いただけます。

RSA500シリーズ・リアルタイム・スペクトラム・アナライザ

業界をリードする優れた堅牢性と可搬性、現場での作業に必要な高度な機能をすべて備えたUSBリアルタイム・スペクトラム・アナライザを使用することで、目的の信号を検知し、問題の解決に必要な行動を取ることができます。

RSA600シリーズ・リアルタイム・スペクトラム・アナライザ

 RSA600 with laptop

高確度のRSA603A型/RSA607A型USBスペクトラム・アナライザは、無線デバイスの統合やEMI 、IoTプロジェクトに役立つ豊富な機能を備えており、デバイスやコンポーネントの視覚化/特性評価に最適です。

RSA5000B

 RSA5000B front image angle

業界トップクラスの性能を備えたRSA5000Bシリーズ・リアルタイム・スペクトラム・アナライザを使用すれば、優れた精度と確度で、デバイスやコンポーネントの視覚化/特性評価が行えます。このスペクトラム・アナライザは、高性能/高感度なスペクトラム測定が行えるだけでなく、他社のスペクトラム・アナライザよりはるかに高速なため、従来より効率的で正確かつ信頼性の高い測定/トラブルシューティングが可能になります。

RSA7100B型

 RSA71000A-1

RSA7100B 型ワイドバンド・シグナル・アナライザは、最高800MHzの周波数帯域に対応したリアルタイムのスペクトラム解析機能と、全帯域でのデータのシームレスな同時ストリーミング機能を備えています。次世代の設計を可能にする、通信分野の研究やレーダ/防衛関連に最適な製品です。