はじめに
時間とともに高速に変動する信号を観測する必要性
時間とともに高速に変動するRF信号が一般的に使用され始めたた め、テクトロニクスはフレームをオーバラップ(重複)させた離 散時間フーリエ変換機能をRSA(リアルタイム・スペクトラム・ アナライザ)に搭載することにより、非常に短時間のイベントや 短時間で変化する信号の観測に対応しました。
この入門書では、オーバラップ技術の必要性とその特長および動作原理、また時間とともに変動するRF信号がどのように効率的に観測できるかについて分かりやすく説明します。
時間を周波数に変換するときに、多くの専門用語が一般的に使用されています。たとえばFFT(高速フーリエ変換)、DFT(離散フーリエ変換)、離散時間フーリエ変換、CZT(Chirp-Z変換)などが使用されますが、ここでは離散時間フーリエ変換を主に使用します。FFTとCZTは、特別な変換が測定性能上必要となる場合に使用します。
スペクトログラムの拡大表示
スペクトログラム表示は、複数のスペクトラム表示を時系列に表 示したものです。各スペクトラム(通常のRFスペクトラム表示)は、 スペクトログラム表示の最下部に1ラインとして追加表示されま す。水平軸は周波数で同じですが、振幅情報は1ラインの色または 輝度に変換されます。後のスペクトラムは前のスペクトラムの下 に表示され、1ラインごとに順次シフトして全体が表示されます。
これが連続することにより、垂直軸は時間軸となり、信号の周波数、振幅、時間の3次元表示で観測できます。
オーバラップ変換は、スペクトログラム表示の拡大表示と似たような機能になります。これは、時間スケールを効果的に引き延ばすことにより行われます。スペクトログラム表示にオーバラップ変換を追加することにより、短時間のイベントもオーバラップされるため、時間とともに周波数が変動する様子をはっきりと観測できるようになります。
図1a. 最上部のスペクトログラム表示はオーバラップなし
- フレーム間は2.23μs
図1b. 252ポイントのオーバラップ(335ポイント・フレームの75%)
- フレーム間は553ns
図1c. 325ポイントのオーバラップ(335ポイント・フレームの97%)
- フレーム間は66.7ns
図1d. フレーム間は6.67nsに設定
- 1サンプル間隔
- 110MHzスパン
- 1,024ポイントFFTで、視覚上1,000倍の改善
図1は、同じ信号を使用してオーバラップ量を増加させたときのス ペクトログラム表示です。図1aはオーバラップがない状態で、5 スペクトラム・フレーム以下の短時間幅(合計10.5μs)の入力 信号を表示しています。この表示では、信号が時間とともに変動 する様子を観測するには十分とはいえません。75%のオーバラッ プが実行された2番目の図1bのスペクトログラム表示では、時間 とともに変動する信号がわずかに観測できます。
97%のオーバラップが実行された3番目の図1cのスペクトログラ ム表示では、10.5μsパルス内に複数の信号がはっきりと観測で きます。最初にCW(連続波)がホッピングし、次に3周波数が同 時にホッピングし、さらにダウンチャープの後にアップチャープ し、最後に2周波数がホッピングしています。図1dの最後のスペ クトログラム表示では、スタート時間を最小の1サンプル間隔とし た例で、変換フレームを完全にオーバラップしています。この表 示では、最後の2周波数ホッピングを拡大表示しています。
オーバラップの動作原理
周波数変換フレームのオーバラップ
初期のリアルタイム・スペクトラム・アナライザ(RSA)は、A/Dコンバータからのデータを、順次シーケンシャルに処理していました。最初の1,024個(1~1024)のデータは、最初にFFT(1番目のフレーム)処理され、2番目の1,024個(1025~2048)は2番目のフレームとして処理されます。
この方式では、時間とともに変動する信号を観測する場合、基本的な制限があります。1FFTフレームに必要な入力信号サンプルをデジタル化する時間により、測定できる最短のイベント時間幅が決定されます。各FFTフレームは、フレームごとに処理され表示されます。複数のイベントが1FFTフレーム内で発生すると、それらのイベントはすべて一括して変換されてしまいます。
短時間幅のイベントを観測する方法の一つに、離散時間フーリエ変換があります。FFT演算で使用するサンプル数は、正確に2の乗数でなければなりません。また入力フレームの時間サンプル数は、周波数サンプル数またはFFTのスペクトラム出力に含まれるビン(周波数分割数)と同じである必要があります。一般的に使用されるフレーム長は、1,024ポイントです。
FFTほどには制限のない変換としては、離散時間フーリエ変換とCZT(Chirp-Z変換)があります。CZTでは、200または300の入力ポイントでも1,024の出力ポイントが得られ、またある条件下では、12や13の少ない入力ポイントでも変換が可能です。
フレーム長よりも短時間のイベントは、入力サンプルをオーバラッ プ処理させることにより大幅に観測しやすくなります。オーバラッ プFFTでも、同じ入力アナログ信号のデジタル・サンプル・デー タを使用しますが、単純にそのデータをシーケンシャル・フレー ムに分割する代わりに、入力サンプル・データは次のようにフレー ムに保存されます。たとえば、1から1,024までのサンプルはフ レーム1に保存され、次に512から1,536までのサンプルはフレー ム2に、1,025から2,048までのサンプルはフレーム3というよ うにオーバラップされて保存されます。このような方法により、 各フレームは1,024のシーケンシャル・サンプルで構成されます が、最初の半分は前のフレームと同じサンプルを共有し、後の半 分は次のフレームのサンプルを共有することになります。
スペクトラム表示よりも多くのスペクトラム・ラインが表示でき るスペクトログラム表示では、スペクトラム・ライン・グループ を1表示ラインにまとめて表示させる表示圧縮アルゴリズムを使用 しています。現在のRSAシリーズで使用している方式では、スペ クトラム・ラインを2の乗数で圧縮したスケール値が設定されます。 スケールが0のときは、圧縮はされません。スケールが-2のとき は、2ラインのグループが1表示ラインに圧縮されます。スケール が-4のときは、16ラインのグループが1表示ラインに圧縮され ます。
このスケール設定は、スペクトログラム表示での拡大表示も使用されます。スケールが1に設定されたときは、スペクトラム・ラインは2倍に拡大表示されます。これは、離散時間フーリエ変換が50%のオーバラップで実行されたことを意味します。フレームの前半は、前のフレームの後半を共有し、フレームの後半は次のフレームの前半を共有することになります。
スケール設定が4のとき(16倍に拡大)は、フレームから次のフレー ムまでの94%がオーバラップします。最も拡大率(オーバラップ 量)を大きくとった場合は、第一フレームでは1から1024サンプ ル、第2フレームでは2から1025サンプルというように各フレー ム間のスタートポイントの差が1となります。CZTでは、スパン(取 込み帯域幅)、RBW(分解能帯域幅)、ウィンドウ・フィルタなど の設定によって異なった入力サンプル数が使用されるため、最大 スケール設定値もこれらの設定によって変わってきます。
図2に示す解析(Ana)ボタンを選択し、次に図3に示すスペクト ラム時間(Spectrum Time)タブを選択することにより、使用中 のフレーム長の値がいつでも表示できます。フレームのサンプル 数を確認するには、アクイジション(Acq)ボタンをクリックし、 次にサンプリング・パラメータ(Sampling Parameters)タブ を選択することによりサンプル数が表示されます。図4では、現在 使用中のサンプリング周波数とサンプル時間が表示されています。
ゼロを超える値にスケールを設定すると、以前のスペクトラム情報を含んだ離散時間フーリエ変換スペクトラムが表示されます。
たとえば94%オーバラップ変換処理では、279サンプル・フレー ムの262サンプルがオーバラップされます。サンプリング・レー トが12.5MHzの場合、スペクトラム・フレーム長は22.32μsに なります。前のスペクトラムが終了後、次のスペクトラムは、 1.36μs(サンプル間隔が80nsで17サンプル)後にスタートし、 10MHzスパンを表示します。幅の狭い分解能帯域幅(通常、幅の 狭いスパン設定の場合)の設定では、スペクトラム表示に時間が かかりますが、接近している周波数成分をより分離して表示でき ます。幅の広いスパン設定では逆になります。
このオーバラップ技術により、非常に短時間幅(特に1フレームよりも短時間)のスペクトラム・イベントも(たとえ振幅が減少していても)、複数のイベントとしてとして識別できます。
この技術の特長は、信号内の非常に短時間で発生する変動が観測 できることです。欠点としては、変換フレームは時間的にオーバ ラップされるため、さまざまな周波数イベントが同じ量だけオー バラップされ、スペクトログラム表示されてしまうことです。し かし、オーバラップにより、スペクトログラム表示が拡大表示さ れて観測しやすくなり、スペクトラム・イベント間の相対的なタ イミング測定分解能を上げることができます。
スペクトラム表示とスペクトログラム表示の比較
オーバラップ変換のない処理
図6は、レーダ・パルスのスペクトラム表示とスペクトログラム表 示です。このパルスは、32MHzにわたって5ステップの周波数ホッ ピングし、5ホッピング全体で2μsになっています。40MHzス パンを使用した場合、1スペクトラム変換フレーム長が7.460μs となりますが、イベントの時間長は1スペクトラム変換フレーム長 の約1/4になります。各ホッピングは、1フレームの約1/20の時 間しか持続していません。
このホッピングは1フレーム中に発生するため、オーバラップ処理なしでは詳細な観測はできません。図6のスペクトラム波形表示では、パルスがフレーム内の中央にないため、一部のホッピング周波数が偏って表示されています。
このようなショート(短時間幅の)パルスに対してトリガをかけることは難しく、またFFTフレームの中央にもっていくことが困難のため、有効なスペクトログラム表示を得ることはできません。
オーバラップ時間変換処理
図7では、RSAシリーズを使用して、40MHz帯域幅で図6と同じ ホッピング・パルスをオーバラップ時間変換処理した結果を表示 しています。オーバラップ量は、図6の0(オーバラップなし)か ら最大の372に設定しています(フレーム・サイズは373)、こ のときフレームとフレームの間の時間差は、1サンプルとなります。 図6と比較すると、ホッピングがはっきりと表示されているのがわ かります。パルス時間幅が1フレームよりも短い場合でも、個々の フレームはシーケンシャルに20ns間隔で表示されます。ここでは、 周波数が増加するホッピング・ステップと、各ステップのおよそ の時間が表示されています。
時間の拡張とスペクトラム表示に対する影響
オーバラップによる効果は、拡大表示ではなく時間の拡張ができることです。これにより、時間とともに変動する現象は大幅に観測しやすくなりますが、しかしすべてのイベントも一緒に拡張されてしまいます。離散時間フーリエ変換のオーバラップにより、スペクトラム・イベントも一緒にオーバラップ表示されます。
図8では、中央のホッピングのスタートにマーカが設定されています。フレームのオーバラップにより、個々のステップはほとんど同時発生しているように表示されています。オーバラップ変換は実際の信号を表示するのではなく、フレームのオーバラップにより、各フレームは前後のフレームの成分を含んで表示されます。
図9では、中央の同じホッピングの終わりにマーカが設定されています。この図では、1変換フレーム内におけるパルスのホッピング周波数と、時間とともに変動する特性がはっきりと表示されています。隣接したフレームをオーバラップさせることにより、このように詳細な観測ができます。
時間拡張の影響は、このパルスのホッピングは異なる時間に発生しているにもかかわらず、すべてのホッピングがほとんど同時に発生しているように強調して観測されることです。1変換フレーム長(7.46μs)の約1/4の2μs中に、5シーケンシャル・イベントを持つこのような特殊なパルスに対しては、オーバラップによる影響は非常に大きくなります。
離散時間フーリエ変換処理では、時間の分割を無限に小さくはできません。相互に分割するには、入力周波数の複数サイクルを処理する必要があります。そのため、いくつかの異なったイベントが1フレーム内に存在する場合でも、すべて一括して変換され、一つのスペクトラムとして表示されます。周波数ホッピングが異なった時間に発生したとしても、1フレーム内で発生しているときは、スペクトラムとして一括表示されます。
疑似ランダム変調パルスの測定例
ここで使用するパルスは、周波数ホッピングを持つ8.3μs長のレーダ・パルスです。図10と図11に示すように、ホッピング信号は各ホッピング・セグメントで周波数と持続時間が変化しています。各ホッピングの持続時間は、前のホッピングより短くなっているのがわかります。
ホッピング持続時間が短くなるほど、オーバラップ変換の影響は大きくなりますので、このような場合タイミングの正確な測定には周波数対時間表示が有効です。
周波数対時間表示は、スペクトログラム表示と一緒に表示でき、オーバラップによる時間拡張の影響がある場合でも、マーカによるイベントのタイミング測定が可能です。
スパン/RBW | 立上り時間 |
110MHz/1MHz | 667ns |
10MHz/100kHz | 6.48μs |
20MHz/200kHz | 3.24μs |
40MHz/300kHz | 2.1μs |
1MHz/10kHz | 60.16μs |
図12. RBWによるスペクトログラム表示の立上り時間への影響
注:ここでの立上がり時間は、RFパルスの10%と90%電圧ポイントを使用して測定しています。
スペクトログラム表示の立上り時間
オーバラップ変換を使用したときのその他の影響としては、スペクトログラム表示の時間分解能を増加させる際に、スペクトログラム表示では見かけ上の立上り時間が表示されることがあります。5ホッピング・パルスの例では各ホッピング・セグメントの見かけ上のオーバラップ時間を増加させています。
変換フレーム時間よりも長い時間幅を持った信号の立上り時間は、分解能帯域幅フィルタの設定によって変わってきます。フィルタは固有の立上り時間を持ち、これがスペクトログラム表示の立上り時間の主要素となります。オーバラップにより、信号に含まれるこのフィルタの立上り時間を観測しやすくなります。
1変換フレームよりも短い時間幅を持った信号の立上り時間は、時間ウィンドウの設定によって変わってきます。次に、これらの信号の立上り時間について説明します。
RBW(分解能帯域幅)による立上り時間への影響
スペクトログラム表示の立上り時間は、スパン設定に従って実際 の有効サンプリング・レートが変化し、対応するRBWが変わるた め、スパン設定により異なります。立上り時間は、オーバラップ 量によって変わることはなく、測定時に使用するRBWフィルタに より変わってきます。フィルタは手動で設定できますが、スパン 設定と有効サンプリング・レートによっても自動的に変わります。 このRBWによる立上り時間の変化は、信号の時間幅が変換フレー ムよりも大幅に長いときに大きく影響されます。
これは、立下り時間、パルスの立下りエッジや他の周波数イベントで発生する時間スミアについても同じことがいえます。また、パルスの両端でも同じ影響が現れます。
スペクトログラム表示のRBW立上り時間の測定
図12の表は、RBWの設定を変えて実際に測定した立上り時間を表示しています。
ここで使用しているRFパルスは、90μsの時間幅を持っています。十分長い時間幅のため、RBWフィルタだけの立上り時間が測定されています。
この立上り時間により、スペクトログラム表示を使用したスペクトラム・イベントのタイミング測定の時間分解能が影響を受けます。
測定イベントが1変換フレーム(通常はCZT)より短い場合、見かけ上の立上り時間の変動は、オーバラップによるスミアが主な要因です。
RSAシリーズの時間オーバラップ
オート・モードで40MHzアクイジション帯域幅(40MHzスパン) を例にとると、有効サンプリング・レートは50MHz(20ns/S) になります。CZT変換では373サンプルが必要となり、各フレー ムは7.46μs長になります。オーバラップ・フレームを使用しな い場合、各スペクトラムは7.46μs(373サンプルx20ns/S) 長のデータからなるフレームで構成されます。そのため、シーケン シャル・フレーム間の結合部分で信号がオンになったときは、最 初のフレームにはエネルギは供給されず、次のフレームにすべて 供給されます。これは、スペクトログラム表示を使用した時間イ ベントは、7.46µsの分解能で測定されることを意味します。
完全にオーバラップしたフレームを使用した場合(1スペクトラムのスタートと次のスペクトラムのスタート間の時間差は、1サンプルの20ns)、時間分解能は20nsのようですが、そうでは無いので注意が必要です。
見方を変えることにより、間違いに気付きやすくなります。
FFTウィンドウによる時間分解能への影響
40MHzスパンでは、A/Dコンバータは100MHzのサンプリング・レートで連続的に信号をデジタル化し、50MHzの有効サンプリング・レートでI/Qサンプルが得られます。CZT(Chirp-Z変換)は、取込まれデータから1フレーム・レコードとして連続した373サンプルが変換されます。たとえば、40MHzスパンでは7.46μsのフレーム長になります。
次の例では、オーバラップ・フレームがどのような効果をもたら すかについて説明します。最初のフレームではショート・バース トがスタートせず、次のフレームの最初のサンプルからバースト がスタートする例を考えてみます。最初のフレームはRFバースト のパワーの影響は受けません。2番目のフレームは、372サンプ ルがオーバラップされ、1サンプル遅いポイントでスタートします。 このフレームが受けるバーストからのパワーは、1サンプル・ポイン トのみとなります。同様に、最終的にバースト(バーストが1フレー ムより短時間の場合)の全体が1フレームに含まれるまで、あるい はバーストで1フレームが一杯になるまで(バーストが1フレーム の7.46μsと等しいか長い場合)、次第に大きなバースト・パワー が観測されることになります。
後のフレームは前のフレームよりも多くのバースト・パワーを持 つため、たとえば2番目のフレームは、最大バースト・パワーの 1/373のパワーを持つことになります。これは、パーセバルの定 理で次のように説明されています。変換フレームに含まれる信号 サンプル数の二乗に比例して増加するコヒーレント信号のパワー・ レベルが、離散フーリエ変換によりスペクトラムに変換されます。 公式は、次のように表されます。
パワー(dB)=20Log(信号サンプル数/合計サンプル数)
振幅への影響については、後で詳しく説明します。
次は、時間ウィンドウによる影響です。この影響として、フレー ム両端近くのサンプルは、スペクトラムに変換される量が減少し ます(サンプルの端では実質的にゼロに減少)。この時間フィルタ の目的は、フレーム両端で信号の急峻なスタートや終了による影 響を取り除くことです。このウィンドウにより、フレーム両端近 くの急峻なスタートや終了の影響を減少させることができます。 (図8と図9を参照)スペクトログラム表示での水平スミアは、ス ペクトラム表示で観測される短時間幅パルスのsinx/xの単純な重 ね合わせになります。
これらの影響により、1バースト・サンプルを含む2番目のフレームのスペクトラムは、ほんのわずかな振幅となり、実質的にはスペクトラムが存在しないことになります。フレームの約1/4がバーストで満たされるまでは、バースト振幅の大部分は表示されません。
これは、スペクトログラム表示における信号の立上りを遅く見せ、実行的な時間分解能に影響を与えます。
オーバラップの立上り時間とウィンドウ・フィルタの影響
時間変換フレームより短い時間幅のパルスを表示する場合、スペ クトログラム表示の見かけ上の立上り時間は、CZTで設定された 時間ウィンドウの関数となります。スペクトログラム表示で高速 パルスを表示させる場合、変換ウィンドウは立上り時間を制限す る大きな要因となるため、このフィルタを取り除いたときの影響 を調べる必要があります。使用可能なフィルタの一つに、フィル タがまるで入っていないように見えるユニフォーム・フィルタが あります。
図13に示すように、初期設定のカイザ・ウィンドウを使用すると、すべての周波数ホッピングは見かけ上の持続時間が減少し、またウィンドウ・フィルタにより立上り時間が遅くなります。この例で使用している実際の信号は、各RFホッピングの持続時間が400nsで、RF周波数の1/2サイクル(2.4GHzで約200ps)の立上り時間を持っています。
スペクトログラム表示では、約4.9μsの各セグメント長を表示していますが、このセグメント長は1フレームの373サンプルに実際のセグメント長(20サンプル)を加えた長さ(7.860μs)になります。カイザ・ウィンドウにより、時間拡張の幅は減少しています。見かけ上の立上り時間は約1.48μsで、図12の表にある立上り時間と同じ方法で測定されています。
フィルタを取り除くことにより、スペクトログラム表示の見かけ上の立上り時間は改善されます。ただし、フレーム端での急峻な終了の影響が現れます。図14は、図13と同じ信号をユニフォーム・ウィンドウで表示しています。
各ホッピングのスタートと終了は時間的にオーバラップしていますが、これはオーバラップ変換では避けることはできません。図13の初期設定ウィンドウと比べると、図14では各セグメントの始めと終わりがより明確にわかります。ユニフォーム・フィルタを使用すると、有効立上り時間は大幅に速くなります。40MHzスパンで、カイザ・フィルタを使用した場合の立上り時間は1.48μsになりますが、フィルタを使用しないと立上り時間は320nsになり、およそ5倍高速になります。
時間拡張の幅は、設定した値になっています。ユニフォーム・フィルタを使用したCZTでは、1フレーム当たり149サンプルしか使用しないため、セグメント長は1フレームの149サンプルに、そのセグメントの実際の時間長である20サンプルを加えた3.380μsになります。図13は3.3μsの値を表示していますが、これは設定した時間拡張の幅に非常に近い値になっています。
ユニフォーム・フィルタによる影響
ユニフォーム・ウィンドウを使用すると、時間とともに変動するホッピングはよりはっきりと観測できますが、ホッピングのエッジによる影響が現れます。それにより、主信号近くの小さな信号が観測できなくなります。ホッピング・セグメントのエッジによる影響は、はっきりとしたモアレ・パターンとしてスペクトログラム表示上に現れます。
エッジによる影響は、パルスがフレームの途中でスタート、ある いはフレームがパルスの途中で終了するときに現れます。ウィン ドウ・フィルタを使用しないときは、オーバラップ・フレームを 移動させることにより、最初のフレームではショート・パルスが、 次のフレームではそれよりもわずかに時間幅が広くなったショー ト・パルスが観測でき、順次全パルスが1フレーム内に入るまでこ の動作が行われます。各フレームが1パルス前よりも時間幅の広い パルスを含むときは、sinx/xパルス・スペクトラムが時間幅に応 じてその周期性を変えて表示されます。
フィルタを使用しない場合、このホッピング・パルスの全周波数成分は、いずれの周波数成分も減少することなく、1フレームに時間拡張されます。ただし、パルスの時間幅により全体が等しく減少します。オーバラップ・フレームは、この時間位置をうまくとらえることができます。図14の上側のスペクトラム表示では、すべてのホッピング成分が等しい振幅で表示されています。
注:図14でははっきりとエッジが表示されていますが、時間スミアにより、各ホッピング・パルスで同時に複数の周波数がオンであるかのように間違って観測されやすくなります。
時間イベントの正確な測定
RSAシリーズは、時間とともに変動する現象の正確な測定に最適なスペクトラム・アナライザで、非常に短時間で変動するRF信号を正確に測定する機能を持っています。時間対周波数表示または複調モードを使用するだけでイベントの正確な測定が行えます。
RSAシリーズは、マルチドメイン解析機能も持っています。取込まれたサンプル・データを使用して、数種類の復調ソフトウェアと測定ソフトウェアが同時に処理できます。これは、時間とともに変動する信号を正確に測定できる方法です。周波数ホッピング・パルスは、FvT(周波数対時間)で表示・測定できます。
図15では、11シーケンシャル周波数ホッピングで構成されるレー ダ・パルスを表示しています。この図は、スペクトログラム表示 とFvTを表示しています。表示デシメーション(間引き処理)がオ フのとき、FvT表示ではRFサンプル周波数を測定するために最高 サンプリング・レートを使用します。この例では、スパンは110 MHz、複合(I/Q)サンプリング・レートは150MHzに設定され、 6.667nsごとに周波数測定が行われています。FvT表示を使用し たときの時間測定分解能は、サンプリング・レートにより決定さ れます。
FvT表示のマーカは、周波数と時間を測定するときに使用します。
マルチドメイン解析
図15の右側のウィンドウは、周波数対時間を表示しています。デルタ・マーカは、パルスのホッピング部分のトランジション・ポイントに設定されています。リードアウトは、400nsのホッピング時間を表示しています。
マーカはステップ端に設定されているので、正確に9.003MHzの周波数ステップ・サイズが測定できます。
マーカは両方の表示で時間相関が取れているため、両ドメインで同じポイントが測定できます。
FvT測定の限界
FvTでは測定できず、スペクトログラム表示が必要となる場合があります。周波数弁別器タイプの機器などで、複数の周波数が同時に存在する場合、正しいFvT測定はできません。
図16の左のスペクトログラム表示例では、最初にシングル・キャリア、次に3つのキャリアが発生し、最後にシングル・キャリアとなる信号を観測しています。また3つのキャリアが同時に発生している部分での中心キャリアは、途中で周波数が低く変化し、しばらく継続している様子が観測されています。
図16の右のFvT表示では、シングル・キャリア(1キャリアに1マーカを設定)は問題なく表示できますが、同時発生する3周波数信号の中央部分は広帯域幅ノイズとして表示されてしまいます。これは、信号が表示される前後の時間の状態によく似ています。このため、このような信号の特性を観測するには、スペクトログラム表示のほうが有効です。
振幅への影響
ショート・パルス
前述したように、1FFTフレームより短い時間幅のパルスやRFイベントは、振幅が減少した状態でスペクトラム情報に変換されます。この振幅減少は、その信号が占有する時間変換フレーム量に比例します。(パーセバルの定理)
図17の上部は、1変換フレーム中に複数のホッピング・セグメントが含まれたスペクトラム表示で、各セグメントが異なった振幅で観測されています。それぞれの振幅は、最も高い周波数で-26dBm、次の周波数で-31dBm、その次の2周波数では-41dBmと-47dBm、最後の周波数はノイズより小さいため測定できません。
実際の入力信号のホッピング・セグメントは、同じ振幅を持っているのですがこのような差異が発生します。また各セグメント長が1フレーム長より短いため、振幅の減少が発生しています。
7.46μs変換フレームの中心におけるショート・パルスの振幅減少 (全フレーム振幅にノーマライズ) |
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パルス長(ns) | ユニフォーム・ウィンドウ | カイザ・ウィンドウ | ブラックマン-ハリス・ウィンドウ |
7.46μs以上 | 0dB | 0 | 0 |
2000 | -11.4dB | -2.68dB | -3.67dB |
400 | -25.4dB | -15.3dB | -16.7dB |
20 | -51.4dB | -40.3dB | -41.8dB |
2.233μs変換フレームの中心 | |
パルス長 | ユニフォーム・ウィンドウ |
2.233μsまたは2つ以上 | 0dB |
2.000μs | -0.96dB |
400ns | -14.9dB |
20ns | -41.0dB |
図18. 各種ウィンドウ・フィルタによるショート・パルスの振幅減少
個々のセグメントの振幅差は、時間ウィンドウ・フィルタ内のフ レーム・ポジションにより変わります。パルスとフレームは完全 に非同期のため、最も低い周波数に位置する最初のホッピングの 様に偶然にフレームの始まり付近に測定されたパルスはCZTの ウィンドウ関数により大幅に振幅が減少します。ウィンドウ関数 の中心付近に位置したパルスの振幅減少は小さくなります。
図18の表では、ショート・パルス長の補正値を表示しています。2表とも、帯域幅は40MHzに設定されています。この40MHz帯域幅でカイザ・ウィンドウが選択されたときは、7.46μsの変換フレーム長が使用され、ユニフォーム・ウィンドウが選択されたときは、2.233μsの変換フレーム長が使用されます。フレーム時間以上のパルス長の場合は、正しい振幅が測定されます。この表は、ショート・パルスの振幅減少エラーを表示しています。
この表で使用している計算では、パルスはフレームの中心に位置すると仮定し、また表の最上部に書かれているようにユニフォーム・ウィンドウかカイザ・ウィンドウを使用しています。
また、アナライザが同調する周波数と異なった(FFTビンと一致しない)中心周波数を持つ入力信号によるスキャロッピング・エラーはないものと仮定します。スキャロッピング・エラーがあると、0.2~0.3dBのエラーが増加します。
FFTまたは離散時間フーリエ変換を使用すると、一般的にスキャロッピングと呼ばれる振幅変動の影響が現れます。これは、入力信号周波数が1FFT出力ビンの中心と一致しているか、または2個のビンの間に位置する時に現れます。
この振幅への影響は、並列に並んだ多くの狭帯域幅フィルタを通 してFFTが実行されることを考えると簡単に理解できます。FFTの 周波数スパンにわたり入力信号の周波数が、入力信号がFFT出力 ビン(並列に並んだ狭帯域フィルタの一つ)の中心に位置したとき、 測定振幅は最大になります。ただし、入力信号が次のビンの間に わずかに異なった周波数に移動するときは、元の出力周波数ビン の中心周波数から多少のオフセットが生じます。周波数の移動が、 次の隣接したビンの中心に位置したときに、再び最大振幅が得ら れます。
入力信号が、隣接した2FFTビンの中心に位置したときに最小振幅になります。振幅減少幅は、出力ビン間のスペースおよびFFTに使用するウィンドウ関数とそのウィンドウ・パラメータによって変わります。最大振幅変動幅の正確な計算については、ここでの説明は省略しますが、変動幅は数dB程度になります。
図19では、最上部に入力されるRFパルスを示し、その下には4つのシーケンシャル・オーバラップ・フレームが示されています。この後も同様に処理が行われます。
各フレームに含まれるパワーは、前のフレームよりも大きくなっていることが分かります。図の最下部に表示されているフレームは、時間が経過しフレームのほぼ中央にパルスが位置した状態で、パルスの全部が含まれています。このフレームは、他のフレームと比べて最も大きな振幅を持っています。
この変換例では、ウィンドウ・フィルタは使用していません。
図20では、図19と同じパルスと変換フレームに、時間ウィンドウ・フィルタを使用した場合を表示しています。この図では、フィルタの両エッジでパルス振幅が大幅に減少していますが、フレーム中央のパルス振幅はほんのわずかな減少にとどまっています。
正確な振幅は、フレーム期間連続して1フレーム長以上RF信号を測定することで得られます。変換処理後の振幅は、ウィンドウ関数で使用されるフィルタ応答によってノーマライズされます。
カイザ・ウィンドウ
RSA6000シリーズのスペクトラム表示と、スペクトログラム表示を処理する時間ウィンドウでは、初期設定のカイザ・ウィンドウが使用されます。図21は、カイザ・フィルタのノーマライズされた応答表示です。
このフィルタを使用しないで入力サンプル・フレームを変換すると、スペクトラムの急峻なスタートと、フレーム終端での急峻な終了により不要なペクトラムが発生します。このフィルタまたは同じようなフィルタを使用することで、フレーム端をゼロとすることで不要なスペクトルを減少させ、この問題が解決できます。フレーム中央近くのサンプルは、そのような影響を受けにくくなります。この応答表示の水平軸は、1,024サンプルの例(その他の入力サンプル数でも形状は同様)です。
図18のパルス幅対表示振幅の表で、フィルタを使用したときと使用しないときのフレームの振幅差は、このウィンドウ応答表示から算出しています。
振幅減少の計算
図22は、拡張表示の中心付近にマーカがあるオーバラップ変換の 表示です。表示されているスペクトラムは、フレームの中心に位 置する周波数ホッピングとパルス全体を変換した結果です。すべ ての周波数ホッピングは1フレーム内に収められ、ウィンドウ関数 の中心に位置しています。周波数ホッピングの振幅値は、- 15dBmから-18dBmまでの値に入っています。
各ホッピングは400ns長で、フレーム全体では7.46μs長となり、 またスペクトログラム表示でのパワーは、パーセバルの定理によ り減少します。パワーの計算結果は、20Log(0.4/7.46)=-25.414dBになります。7.46μs長フレームが持つ-25.414dB のパワーは、時間ウィンドウ・フィルタ(図21のカイザ・フィル タ応答)による+10.344dBの補正が必要となるため、最終的な パワーは-15.07dBになります。
ウィンドウ関数を使用したFFT演算では、FFTフレーム両端近くのサンプルによるスペクトラムに与える影響は小さくなります。両端のサンプルのスペクトラムはゼロになります。FFTフレーム全体にわたって信号が連続している場合、フレーム両端近くのサンプルの振幅減少により、信号振幅の計算結果も減少します。
そのため、FFT後の信号振幅に対して、各サンプルの振幅減少分 を補正する必要があります。この補正は、標準のFFT演算で実行 されます。補正に必要なdB値は、サンプルの合計振幅減少を基に 時間ウィンドウ関数から求められます。この値は、ウィンドウ関 数のノーマライズした値を合計し、その値をフレームのサンプル 数で割ることにより簡単に求めることができます。dB値は、 20log(サンプル減少の平均値)で計算されます。ここで使用し ているカイザ・ウィンドウの補正値は、10.344dBになります。
ショート・パルス振幅の読み取り値は、手動で補正できます。中心パルスの振幅値は-15.05dBで、15.07dBの減少分が補正されます。このパルスの補正された振幅値は、+0.02dBになります。このパルスが1変換フレームよりも長くなったときの振幅値は、-0.38dBになります。実際の測定結果と理論計算値は、ほぼ一致(0.4dB差)しています。特に、歪みの多い短時間幅パルスの振幅を測定するときに必要となります。
ウィンドウの中心にパルスがない場合の振幅補正計算についての説明は省略しますが、フィルタ両端で個々にカイザ・フィルタ・カーブを使用することが必要です。
その他のウィンドウ
RSAシリーズには、いくつかのウィンドウが装備されています。 ここでは、カイザ・ウィンドウとユニフォーム・ウィンドウの問 題点について説明します。ブラックマンハリスを含むその他の ウィンドウは、初期設定のカイザ・ウィンドウに比べて、時間や 振幅に対する影響が大きいものや小さいものがあります。それら のウィンドウを使用するときは、振幅やスペクトログラム表示の 見かけ上の立上り時間に対する影響を補正する必要があります。
特殊な信号に対する最適なウィンドウ関数についての説明は省略しますが、RSAシリーズのマニュアルなどで説明していますので参照してください。
超ショート・パルス
1CZTフレームよりも大幅に時間幅の短いパルスは、スペクトラム表示やスペクトログラム表示でも観測できません。このようなパルスは、パワー・トリガによってのみトリガをかけることができ、そのトリガと同時にCZTフレームもトリガされスタートします。これによりパルスは、CZTフレームのスタート、すなわちウィンドウ・フィルタの1端に位置します。
フレームのスタートにパルスが位置するときは、ウィンドウ関数によりショート・パルスの振幅はゼロ近くに減少します。
振幅対時間表示は、ショート・パルスを測定するときに使用されます。自動パルス測定ソフトウェアでは、50nsまでの短い時間幅を持つショート・パルスの特性評価が行えます。50ns以下の時間幅を持つショート・パルス測定には、マルチドメイン測定表示が必要です。
パワー・トリガは、非常に時間幅の短いショート・パルスに対しても動作し、設定したスレッショルドを越えるデジタル・サンプルを検出してトリガをかけます。
図23で は、20nsパ ル ス 上 の マ ー カ に よ り、19.9ns時 間 幅(6.67nsの1サンプル時間の不確かさを含む)の測定結果を表示しています。
図24の右図のスペクトラム表示では、信号のスペクトラムは観測できません。それはパルスの時間幅が非常に短いため、振幅が非常に小さくなっているからです。パルスがフレーム端にあるときは、その振幅はウィンドウ関数によりノイズ以下に減少してしまいます。
このパルスは、1フレームの1%(2.233μs)よりも短い20ns時間幅を持っています。
図24は、このショート・パルスのオーバラップなしのスペクトラム表示とスペクトログラム表示です。アクイジションがトリガされた後、全部で13のパルスが100μsごとに表示されているのがスペクトログラム表示で観測できます。ただし、観測できる半分近くのパルスは、振幅が非常に小さくなっています。
マーカは、スペクトログラム表示の最下部の観測可能なパルス上に設定されていて、このマーカ位置のスペクトラムが右図で表示されています。
たとえトリガをかけることができたとしても、通常のスペクトラム表示ではこのようなショート・パルスを表示することはできません。オーバラップがない場合、このようなパルスの存在が確認できる唯一の方法は、スペクトログラム表示でトリガ・ポイントを表示させることです。
このようなショート・パルスに対しては、図24のオーバラップなしではスペクトラム観測ができませんでしたが、オーバラップ変換を実行することにより図25のようにはっきりと観測できるようになります。
図25のオーバラップ変換では、フレームごとに1サンプルずつ後にずらせてフレームをスタートさせるよう設定されています。ここでは、このパルスの一部分の174変換フレームを表示しています。その中の22フレームは、中心付近にパルスが位置しているため、振幅測定値は22フレームで0.2dB差以内になっています。
オーバラップ量を設定する際に重要なことは、最小時間幅のパルスが検出でき、また時間とともに変動する現象が観測できることですが、必要以上にはオーバラップ量を多くしないことも重要です。オーバラップ量が多すぎると、スペクトラム・イベントの過剰な時間スミアの原因ともなります。
スペクトログラム表示上のマーカ設定により、右図でスペクトラム表示されるスペクトラムが選択できます。図25のスペクトログラム表示とスペクトラム表示では、オーバラップによりショート・パルスが観測できます。ここでは、ウィンドウ中央にパルスが位置するように設定されています。これは、オーバラップ変換によってのみ可能になります。
トリガ・ポイントは、時間拡張されたパルスの中央にあります。フレームがオーバラップされるときは、フレーム内のパルスのスタート位置が、フレームごとに設定したサンプル・パルス数だけ、シーケンシャルに後に移動します。
ギャップ時間の損失信号
離散時間を周波数に変換処理するときは、連続したフレームかオーバラップしたフレームを使用します。この変換処理に必要な時間によりギャップが生じますが、ギャップの間は信号を取込むことはできません。
実際のギャップ
変換フレームがシーケンシャル・フレーム間のギャップで時間的 に分割されるときは、信号が変換されない時間が発生します。 ギャップが生じる理由の一つは、スペクトラム・アナライザと同 じような機能を持つVSA(ベクトル・シグナル・アナライザ)の 従来動作によるものです。VSAでは、表示アップデートごとに1 フレームが取込まれます。そのため、LCD(またはその他の表示 装置)のアップデート・レートにより、フレームのアクイジション・ レートが制限されます。図26は、そのときのタイミングを表示し ています。1変換フレームを取込む時間と変換処理時間を合わせて も、表示のアップデート時間よりは短くなっています。
信号を正確な振幅で表示させるためには、表示アップデート・レートに1フレーム・アクイジションを加えた時間に等しい信号持続時間が必要です。フレーム間の時間は、非常に重要です。このフレーム間に入力された信号は処理されません。
変換フレームごとの表示アップデートの待ち時間をなくすことにより、ギャップを大幅に減少させることができます。図27は、フレームのシーケンシャル処理を利用する方法を表示しています。この方法では、1フレームのアクイジション時間と、それよりも長い変換処理時間との差がギャップになります。
実効ギャップ
ただし実際のギャップは、処理時間とアクイジション時間との時間差よりも大幅に大きくなります。離散時間フーリエ変換に必要な時間ウィンドウにより、取込むことのできないサンプル数は増加します。
ウィンドウ関数により、各変換フレーム端でのサンプル数は減少します。図28で示すように、フレームと次のフレーム間にギャップがあり、短時間幅の干渉信号がそこで発生した場合は観測できません。各フレーム端で、振幅が減少していることに注意してください。
すべてのサンプルが取込まれ、またフレームが隣接している場合でも、ウィンドウの影響によるフレーム端での振幅減少により、フレーム間に実効ギャップが発生します。図29では、そのウィンドウの影響を表示しています。この例では、問題となる干渉信号が、この実効ギャップの中央にあるため、取込むことはできません。
ギャップのないオーバラップ変換
アクイジション・ギャップと実効ギャップを完全に取り除くには、 オーバラップ変換が必要となります。図30は、フレーム・アクイ ジション時間よりも短い変換演算処理時間の場合の50%オーバ ラップ・フレームのタイミングを表示しています。演算処理時間 がアクイジション時間よりも長くなる場合は、50%オーバラップ を実現するためにパラレル演算処理が必要となります。
図31は、オーバラップなしではフレーム端のギャップで信号を取込むことができない短時間幅信号の場合でも、50%オーバラップにより目的の信号が完全に1フレーム内に取込まれている様子を表示しています。
デジタル・フォスファ・スペクトラム表示(DPX®)
時間とともに変動する複数のRF信号を表示できる新しい機能が、 DPX(デジタル・フォスファ・スペクトラム)表示です。DPXは、 どんな信号変動も見逃すことのない十分に高速なアップデート・ レートを持ったスペクトラム表示です。図32は、そのDPX表示で す。ハードウェア・プロセッサは、1秒間に292,969回のFFTを 処理できます(RBWはAutoに設定)。このときのFFTは、1,024 ポイントで50%オーバラップ設定です。
このDPX表示は、リアルタイムでFFT処理しているため、時間とともに変動する信号をライブRF表示できます。DPXプロセッサは、RSAシリーズで使用しているLCDアップデート・レートにあわせてスペクトラム情報を圧縮表示します。
図1で使用した信号を、図32でDPX表示しています。発生頻度が少ない周波数成分は濃い青で、多い周波数成分は明るい緑で表示しています。
50%オーバラップFFTのライブRFスペクトラム表示を用いること で、1FFTフレームよりも短い信号は振幅が減少して表示されます が、すべてのイベントを取込み表示することができます。A/Dコン バータからの全時間サンプルをシーケンシャルFFTフレームで表 示しても、オーバラップがない場合は、1FFTが終了し次のFFTが スタートする間に発生するショート・イベントを取込むことがで きません。50%オーバラップでは、FFTフレーム間に発生するス ペクトラム・イベントが取込むことができます。
オーバラップ処理の制限
スペクトログラム表示でオーバラップ処理が使用される場合、目視で観測できる以上には測定分解能は改善されません。またウィンドウ・フィルタを使用しない場合でも、実効立上り時間が制限され、時間拡張の影響が現れます。この2つの制限に対しては、急峻な周波数変動が正確に測定できるRSAシリーズの時間ドメイン表示を使用することで解決できます。
まとめ
オーバラップ変換により、短時間で時間とともに変動するRF現象が確実に観測できます。1,024ポイントのシーケンシャルFFTと比べて、このような現象が約1,000倍の確率で観測できるようになります。さらに、1変換フレーム時間よりも短い時間で変動する複数のイベントをスペクトログラム表示できます。
非常に時間幅の短いパルスを、スペクトログラム表示とスペクトラム表示で観測できます。トリガがかったときに常に時間ウィンドウのエッジに位置するため、スペクトラム表示では観測できないような20ns時間幅のショート・パルスでさえも観測できます。
オーバラップ処理は、スペクトログラム表示で特に有効な時間拡張方法です。
DPXライブRF表示は、オーバラップFFTの有効な利用方法の一つです。
このオーバラップを有効利用するためには、次のような制限を知っておく必要があります。
FFTオーバラップにより、イベントがオーバラップ(スミア)されます。
オーバラップ内の時間は、マルチドメイン時間表示または変調解析表示を使用して正確に測定できます。
1フレームよりも短いRFパルスやイベントのパワー・レベル(または振幅)は、実際よりも減少した振幅で表示されます。しかし、パワー・レベル(または振幅)は、パワー対時間表示で正確に測定できます。
補足A:用語集
CZT−Chirp-Z変換任意の入力ポイント数と、それと異なる任意の出力ポイント数を必要とするFFTと似たような変換方法。
DPX−デジタル・フォスファ技術、数千の測定をまとめて1つのビットマップに圧縮表示し、周波数発生頻度を表すピクセルで画面上に表示する表示方法。CRT画面のフォスファ(蛍光体)に似た動作をします。数千の測定をまとめて表示するとともに、1回しか発生しない信号も同じ表示上で同時に表示できます。
FFT−高速フーリエ変換、信号(電圧波形)の時間サンプルを、元の信号の個々の周波数成分を表す周波数波形に変換する演算処理方法です。
RBW−分解能帯域幅フィルタ、入力信号を、任意の周波数成分の振幅を検出するためのRFスペクトラム・アナライザ用フィルタ。フィルタにより、画面上で識別可能な信号間の最少周波数分解能が決定されます。
RSA−リアルタイム・スペクトラム・アナライザ、入力信号に対応して、高速でスペクトラム情報を処理する能力を持った周波数ドメインのアナライザです。