待機電力とは
待機電力(Standby Power)は、電気製品がオフまたは待機モードになっている場合に消費される電力です。ローレンス・バークレー国立研究所(LBNL、Lawrence Berkeley National Laboratory)では、「待機電力とは、電気デバイスが最も低電力モードで使用されている場合の電力」と定義されています。テレビや電子レンジなどでは、待機状態でもリモート制御、デジタル時計が機能しています。ノートPC、タブレット、携帯電話などのデバイスは、待機モードにおいて目に見える機能を提供しない場合でも電力を消費します。このようなデバイスは、待機電力の消費者です。
待機電力の 重要性
家電製品の待機電力は一般的に非常に小さなものですが、すべての家電製品の待機電力を合計すると大きなものになります。待機電力は、家庭、事務所、工場において確実に増えているさまざまな電気負荷の一部となっており、これには小型電気製品やセキュリティ・システムなども含まれます。
例えば、一般的な電子レンジでは、食品を温めるより、デジタル時計の方により多くの電気を消費しています。食品を温めるには、時計を動作させる場合の100倍以上の電力が必要になりますが,99%以上の時間はアイドル(待機)モードになっています。
家電製品の待機電力は通常1~2Wです。コンピュータ・デバイスではそれ以下です。表示、インジケータ、リモート制御機能などで必要になる電力は比較的小さいのですが、これらの製品のプラグは常時接続されており、平均的な家庭での機器の総数を考えた場合、エネルギー消費量はすべての家電製品の最大22%に、すべての家庭内消費の5~10%にもなります(詳細については、資料最後の「参考文献」を参照)。
待機電力のコストについては、次のように表すことができます。
- 個人的である(アメリカでは約100ドル/年/家庭)
- 発電、送電インフラで無駄になっている
- エネルギー輸入に影響するため、エネルギー・セキュリティの観点でいえば政治的である(連邦調達における待機電力の低減については、U. S. EISA 2007 Energy Independence and Security Actを参照)
- 世界的である(CO2排出量の1%は、待機電力が原因であると推定されている)
ENERGY STARやEU Eco Directiveなど、待機電力を削減するための数多くのプログラムが実施されています。プログラムの対象範囲は拡大しており、コンプライアンス達成に必要な、ワットによる待機電力のレベルも確実に小さくなっています。例えば、EC(European Community)のモバイル機器の5つ星レーティングでは、30mW未満の待機電力であることが求められています。
待機電力の測定方法
測定要件
待機電力は、それに適した電力計またはパワーアナライザで測定します。電力をワットで測定するという単純なものでなく、以下のような点に考慮して測定する必要があります。
待機電力測定の問題点
- 電力、電流が小さい
- 低負荷での電流波形は非常に歪んでおり、引き込む電流は非常に高いクレスト・ファクタになる
- 電源のEMCフィルタに流れる電流は主に容量性であるため、力率が小さい
- 電源がバースト・モードの状態では、引き込まれる電力は連続的でなく、不規則になる
低電力、低電流の測定
パワーアナライザは、電流測定に適したレンジを持っている必要があります。一般に、電流レンジの5%以下の測定では信頼性が得られません。
例:230V、力率1における100mWの測定
ワット(有効電力)=電圧×電流×力率
したがって
電流=ワット/(電圧×力率)
=0.1/(230×1)=0.4mA
パワーアナライザは、2mA以下のレンジで動作する必要があります。
高いクレスト・ファクタの波形
電流波形は、低負荷において最も歪みます。電圧のピーク時にのみ電流が流れ、電源のリザーバ・コンデンサを充電し、短いパルス形状になります。
クレスト・ファクタ=ピーク値/実効値
このため、パワーアナライザは、クレスト・ファクタ3以上、可能であれば最大10まで、クリッピングなしに、または測定確度を落とすことなく測定できなければなりません。
小さな力率
小さな力率待機状態では、入力電流はEMCフィルタで使用されるコンデンサ、特にラインと中性点の間にある定格の2倍のコンデンサに流れる電流がほとんどです。
この場合、電流の位相は最大で90°シフトします。これは、多くのパワーアナライザが正確に測定できない領域です。
バースト・モード
無負荷または低負荷で動作している場合、電源回路は電源自身の制御にパワーを供給すると同時に、電源の所定の出力電圧を維持するように動作します。この供給されるコントロール電力は、必要な待機電力よりも大きいことがあるため、多くの電源はバースト・モードに切り替わります。
このモードでは、電源内部のパワー・スイッチング・デバイスは動作を停止し、出力電圧はもっぱら出力平滑コンデンサによって維持されます。出力電圧が規定レベル以下に下がると、電源のスイッチング・デバイスは再び動作を開始し、出力コンデンサを充電します。
このモードでは、電流はACラインからバースト状に流れます。バースト状の電流は不規則であり、流れる期間、大きさは変化します。
また、被測定製品の電力は、温度またはさらなる電力セーブ機能により簡単に変化します。
このような環境下で測定するためには、パワーアナライザは以下の機能が求められます。
- どのような電力も、取りこぼすことなく、連続的に電力をサンプルすること
- 安定した結果が得られるよう、十分に長い時間において電力をアベレージできること
接続
- パワーアナライザは、電圧波形と電力波形を同時にサンプリングし、電力を計算します。安全かつ確実に接続する必要があります。
- 電圧端子に並列に接続して電圧を測定します。
- 電流端子に直列に接続して電流を測定します。一般に簡単な測定では、電流トランスフォーマではなく、シャント抵抗を直接接続します。
- 待機電力の測定では、回路のソースまたは供給側で電圧接続します。
- 通常の電力測定では、パワーアナライザの電圧測定回路に流れる電流と電力は、電流シャントに流れる電流、電力よりも大きく下回ります。
- 待機電力測定では、電流シャントに流れる電流と電力は非常に小さいため、電圧測定回路に流れる電流と電力を無視できなくなります。したがって待機電力測定では、電圧測定のための接続は、電流シャントの供給側に接続します。
基本測定
パワーアナライザで電力を測定する場合の設定に関する注意点を以下に示します。
- 連続サンプリング
- 毎秒1回以上のレートによる電力の記録
- 選択可能な時間におけるアベレージ
テクトロニクスPA1000型またはPA4000型による例
- 上記のようにアナライザを接続する
(高確度で測定するために、1Aシャントを使用する) - デフォルトにリセットする
(Menu → User Configuration → Load Default Configuration) - 1Aシャントを選択する
(Menu → Inputs → 1A) - Standbyモードを選択する
(Menu → Modes → Select Mode → Standby)
PA1000型またはPA4000型パワーアナライザを使用すると、以上の設定で待機電力を正確に測定でき、クレスト・ファクタ10でも測定できるオートレンジ、ギャップのない取込み、1MHzでの連続サンプリング、デフォルトで10秒の平均電力(W)測定が行えます。これ以上の設定なしで、ただちに基本測定が行えます。
これは、日々の製品設計、開発において継続的に使用できる、理想的な基本測定です。
アベレージ時間は、メニュー・システムで変更することもできます(Menu → Mode → Setup → Standby)。10秒間が一般的ですが、測定が不安定な場合はアベレージ時間を延ばすこともできます。難しい場合は、PA1000型またはPA4000型のフル・コンプライアンス測定機能を使用します。
IEC62301 Ed.2:2011、EN50564:2011の測定
PA1000型またはPA4000型パワーアナライザは、IEC62301Ed.2およびEN50564規格に準拠したフル・コンプライアンス測定が行えます。これにより、厳密な測定方法に対応でき、優れた確度で測定できます。厳密な測定方法に対応した、優れた確度で測定できます。
IEC62301 Ed2は、ENERGY STARおよびEuropean regulationNo 1275/2008 (Standby and off mode electric powerconsumption of electrical and electronic household andoffice equipment)で参照される測定方法であるため、重要です。
IEC62301 Ed.2の要件
コンプライアンス測定の前には、規格の最新版をご覧になり、詳細をご確認ください。
サプライ電圧(IEC62301 Ed.2 Section 4.3)
- 各地域で使用される公称の電圧、周波数が、±1%内で安定していること
- THC(Total Harmonic Content)は2%以下であること(THCは、カスタマイズされたTHD(全高調波歪み)、または最初の13次までの高調波のみの全高調波歪み)
- 電圧のクレスト・ファクタ(波高率、ピーク値と実効値の比)は、1.34~1.49であること
- これらのパラメータの変動は待機電力測定に影響を及ぼすため、パラメータはパワー測定ごとに同時に測定し、確認する必要がある。実効値と高調波は同時に測定すること
- 通常のACライン、特にテスト接続が入力電源または配電変圧器に近い場合は、この要件を満たす。電源がこの要件に適合しない場合は、交流安定化電源が必要
測定の不確かさ(IEC62301 Ed.2 Section 4.4)
IEC規格は上記の難しさを考慮し、測定するパワー・レベル、波形の歪み/位相シフトの両方をもとに、測定の不確かさを定義しています。
歪みと位相シフトについては、MCR(Maximum Current Ratio)が定義されています。
MCR=クレスト・ファクタ÷力率
不確かさのレベルである"U"は、図8のように求めることができます。
電力測定手順(IEC62301 Ed.2 Section 5.3)
電力(W)の測定方法には、以下の3種類があります。
1. 直接法
「この方法は、検証目的には適していません。」
この方法は、先に説明したように、パワーアナライザの前面パネルを使用する、基本的な方法です。非常に安定した電源(被測定回路)のみを使用した、迅速なプロトタイプ測定のための方法です。
2. 平均読取法
この方法は、前のバージョンの規格(Ed.1)で使用されたものの改良バージョンです。測定には最低20分必要になるため、すべての製品モードには適用されません。この場合は、次に説明するサンプリング法が適しています。
1. 10分以上の2回の測定から平均パワーを求めます。
2. 2回の測定における電力の変化率(mW/h)を計算し、パワー測定の安定度をチェックします。安定度条件が満たされた場合のみ、測定は有効になります。安定度条件が満たされない場合は、サンプリング法で測定します。
3. サンプリング法
IECによって推奨されている方法であり、最もすばやく実行でき、すべての製品モードに適用します。
- パワー、その他の測定項目は、1回/秒より高速のレートで記録する必要があります。
- 被測定製品は、15分以上電圧が印加されている必要があります。
- 最初の1/3のデータ(5分間)は捨てます。
- 測定安定度は、すべてのパワー測定における最小二乗法による線形回帰で求めます。直線回帰の傾きが10mW/h以下(入力パワーが1W以下の場合)、またはパワーの1%未満(パワーが1Wより大きい場合)を満足している場合、安定していると言えます。
テスト・レポート(IEC62301 Ed.2 Section 6)
テスト・レポートには、測定データ、測定方法の他に、製品、テスト環境、テスト・ラボの詳細も記述する必要があります。
汎用パワーアナライザ要件(IEC62301 Ed.2 Section B.2)
- すべての項目(電圧、電流、クレスト・ファクタ、THC、電力)を測定し、1秒未満の間隔で同時に記録すること
- ギャップなしに連続してサンプルすること
- パワー分解能は1mW以上あること
- 定格測定はクレスト・ファクタ3で、できれば10で測定すること
- 最小電流レンジは10mA未満であること
- 信号オーバレンジ
- オートレンジをオフにできること
- 周波数応答は2kHz以上のこと
待機電力のコンプライアンス測定
使用機器
- AC電源
- Supply Voltage (IEC62301 Ed.2 Section 4.3)の章に適合していること。テスト・ラボでは、適合するさまざまな電圧と周波数の組み合せが出力できるプログラマブルAC電源を使用
- IEC62301 Ed.2の不確かさ、測定手順、一般的な性能に対応したパワーアナライザを使用すること
- テクトロニクスPA4000型またはPA1000型
- IEC62301 Ed.2 Section B.4に準拠した、テスト回路(AC電源、パワーアナライザ、被測定製品)の安全な接続
- テクトロニクスのブレークアウト・ボックスはこの要件を満たしており、4mmの安全ソケットでテクトロニクスのパワーアナライザと1対1で簡単に接続できる
- IEC62301 Ed.2 Section 6で規定されている方法による、測定結果の記録、レポート作成
- USB接続の可能な、テクトロニクスPWRVIEWソフトウェアをインストールしたノートPC
測定手順
- テクトロニクスのブレークアウト・ボックスを使用して、電源、負荷、パワーアナライザを接続します。
- ブレークアウト・ボックスのVLO SOURCE端子を使用することにご注意ください。
- AC電源(例えば、230V、50Hz)を印加し、被測定製品をオンにします。
- パワーアナライザをオンにし、USBでコンピュータと接続し、PWRVIEWソフトウェアを起動します。
- 被測定製品が目的の待機モードに入るように設定するか、または待機モードになるまで待ちます。
- PWRVIEWにおいて、Full Compliance Standbyウィザードを選択してテスト・セットアップを確認するか、または単にApplyをクリックします。
- IEC62301 Ed.2で必要なすべての測定項目は、自動的に選択されます。
- 6. Testタブをクリックし、Startをクリックします。
- コンプライアンス・テストが開始します。
- グラフは自動的にスケーリングされ、ワットによる電力が時間とともに表示されます。
- 規定されている1回/秒以上のレートで測定結果は更新されて表示され、テスト終了時にはレポートが作成されます。
- テスト時間は15分以上かかりますが、安定性が満たされない場合はさらに長くなります。
レポート
PWRVIEWソフトウェアは、Microsoft Excel互換のデータ・エクスポートを含む、測定データを観測/レビューするための強力なツール です。
Resultsタブをクリックし、次にManageシンボルをクリックして必要なデータを選択します。
すべての認証ノートを含む、すべてのコンプライアンス・レポートも、PDFで作成されます。
テクトロニクスのソリューション
待機電力を正確に測定するためには、以下の点を考慮する必要があります。
- 小さなレベルのパワーと電流
- 大きく歪んだ波形と高いクレスト・ファクタ
- 小さな力率
- バースト・モードによる動作
テクトロニクスのPA4000型、PA1000型パワーアナライザは、このような環境でも正確に測定できるように設計されています。IEC62301 Ed.2規格に完全準拠した待機電力が測定できます。
規格対応
PA4000型、PA1000型のIEC62301 Ed.2に対する特長を以下に記します。
1. 測定確度/不確かさ
PA4000型、PA1000型は1A入力を標準で装備しており、最小レンジは2mAです(IEC62301 Ed.2では10mA以下が必要)。
2. 高いクレスト・ファクタ
当社のパワーアナライザは、波形のピーク値に合わせてオートレンジが機能します。これにより、クレスト・ファクタ10の波形でも高確度に測定できます。オーバレンジが発生した場合は、その旨が表示されます。
3. 小さな力率
電流のクレスト・ファクタと力率の比であるMCRは、測定のたびにリアルタイムに求められます。
必要となる不確かさU LIMは規格に従って計算され、パワーアナライザの実際の不確かさU RESは、レンジや力率を含んだ測定条件から計算されます。
必要な不確かさと実際の不確かさは明確に表示、レポートされるため、適合性が確認できます。
4. バースト・モード
IEC62301 Ed.2では安定した測定が求められており、さまざまな条件で安定度が明確に規定されています。
PA4000型、PA1000型パワーアナライザとPWRVIEWソフトウェア
- ギャップなしの連続サンプリング
- 電力、電力品質を含む、同時に測定されたすべての測定値を1秒未満のインターバルで計測と同時にレポート
- 規定されている最少二乗法の直線回帰による安定度の計算
まとめ
待機電力の測定は、電源や、日々使用する家電製品、オフィス製品の設計、テスト、適合性検証で重要です。
テクトロニクスのPA4000型、PA1000型パワーアナライザとPWRVIEWソフトウェアは、待機電力を測定するための優れたツールです。
- プロトタイプの段階では、パワーアナライザの1クリック・スタンバイ・モードで10秒下間での測定が行えます。
- 設計の検証/認証では、パワーアナライザのフル・コンプライアンス機能とPWRVIEWソフトウェアにより、IEC62301Ed.2への規格適合性テストを行うことができます。