IoTにおけるBluetoothのアプリケーション
IoT時代の到来により、2015年には市場の49億個のデバイスがインターネットに接続されており、2020年には250億個まで成長すると予測されています。エレクトロニクス関連の雑誌やインターネット上のあらゆる場所で、IoTに関する技術、概念、製品に関する記事を見つけることができます。インターネットに接続されるデバイスは、日々の生活のどこにでも見ることができます。現在では、インターネットは仮想空間のコンテンツを通信するだけでなく、徐々に形のあるデバイスの間での連携が確立され始めています。このようなスマート・シティで生活すると、相互接続されたデバイスによってわたしたちの暮らしの品質は日々改善されます。既に知られている仮想空間としてのインターネットはより形のあるものになり、世界はまさにIoTの時代に入ろうとしています。代表的なアプリケーションを以下に示します。
現時点では、IoTで広く採用されている通信技術として、Wi-Fi、Bluetooth、ZigBee、Z-Wave、NFC、その他のモバイル通信技術があります。さらに、ISM(産業/科学/医療)バンドのための、規格化されていないASKやFSKに似たシンプルな変調形式も使用されています。IoTの開発メーカは、最適な無線技術を選定する場合、コスト、消費電力、通信距離、安全性など、アプリケーションに応じてさまざまな要素を考慮する必要があります。
Bluetooth技術は、RS232シリアル通信の代替として1994年に開発されました。BluetoothとWi-Fiはある意味補完性があります。市場には、現在数十億のBluetoothデバイスがあり、携帯電話、タブレットPC、パソコン、テレビ、セットトップ・ボックス、ゲーム機などが含まれており、この数は将来も増え続けるものと考えられます。Bluetooth規格には数多くのバージョンがあり、V1.0、V1.1、V1.2、V2.0などから、最近ではV4.0、V4.1、V4.2もあります。この中で、Bluetooth Smartと呼ばれるBluetooth4.0は、高速通信が要求されないIoTにおいて、幅広いアプリケーションで数多く採用されています。これは低消費電力(それ以前のバージョンに比べて90%削減)のためであり、ウエラブル・デバイスには理想的です。
Bluetooth技術の概要
Bluetoothの区分
現状のマーケットと将来のIoTの開発トレンドを基に考えると、Bluetoothの技術はクラシックとLow Energy(LE)の2種類に区分されます。クラシックBluetoothはデータの伝送レートが確保されているため、Bluetoothヘッドセットなどのアプリケーションに最適であり、高品質な音楽が伝送できます。クラシックBluetoothは、さらにベーシック・レート(BR)と拡張データ・レート(EDR)に分類されます。Bluetooth Low Energyはシンプルな情報伝送に注力されており、エレクトロニクス製品の使用可能な時間を伸ばそうとしています。しかし、Bluetooth LEは大きなデータの高速伝送には適していません。
IoT市場のBluetooth Low Energy/BluetoothV4.0アプリケーションの強い要求に応えるため、Bluetooth SIGはBluetoothを装備した既存のスマート・デバイスに対して、Bluetooth SmartとBluetooth Smart Readyという2種類の認証マークを策定しました。
IoTデバイスの開発メーカは、最適なBluetoothのバージョンを選定するのに悩みますが、この選定にはアプリケーションの種類が大きく影響します。最新のBluetooth Low Energyを装備したデバイスと、クラシックBluetoothを装備したデバイスが通信する場合は、Bluetooth Smart Readyが最適です。そうでない場合は、低電力バージョンのBluetooth Smartで十分です。2つのBluetooth SIG認証マークの定義を以下に説明します。
周波数バンドとチャンネル
Bluetoothは、2.400GHzから2.4835GHzの範囲を持った2.4GHzISM周波数バンドで動作する近距離無線通信技術です。クラシックBluetoothには合計で79のチャンネルがあり、チャンネル間隔は1MHzです。これには、2.400GHz(下端)で2MHz、2.4835GHz(上端)で3.5MHzのガード・インターバルが含まれます。Class IIの電子デバイスの最も一般的な放射電力は+4dBmであり、レシーバの感度は-90dBmです。
Bluetooth Low Energy(Bluetooth4.0)は低消費電力とコストに注力しているため、フィルタ設計の要件は比較的低く、変調係数はクラシックBluetoothの0.28~0.35から0.45~0.55になっています。このため、チャンネル間隔は2MHzに増え、合計で40チャンネルになっています。
周波数ホッピング
周波数ホッピングは、Bluetooth規格の主要特性の一つです。当初は、混雑するISM周波数バンドで他の信号との共存を解決するために設計されました。BluetoothはWi-Fiと同じ周波数バンドを共有するため、信号のキャリア周波数を頻繁に変更して、同じバンドの他の信号との干渉を避ける必要があります。言い換えれば、Bluetoothの信号は非常に短い時間でしか固定チャンネルで送信されず、そのチャンネルに留まることもできません。他の信号との干渉が検出されると、Bluetooth干渉されていない別のチャンネルにホッピングして再送信します。Bluetoothのホッピング周波数は毎秒1,600回であり、Bluetoothデバイスの研究/開発/テストには大きな課題となっています。さらに、より多くのデバイスがWi-FiとBluetoothの両方を搭載するようになっていることも問題を難しくしています。
変調
Bluetooth規格では、最も基本的な変調方式としてGFSK(ガウシアン周波数シフト・キーイング)が使用されています。名前が示すように、GFSKはFSK技術に属しています。元のデジタル信号がFSK変調に送られる前に、ガウシアン・ローパス・フィルタによって通信送信のための変調信号のスペクトラム幅が制限され、制限されたスペクトラム幅による消費電力も制限されます。ガウシアン・フィルタにより、Bluetooth信号に必要な帯域幅は1MHzに制限され、変調係数は0.28~0.35になります。Bluetooth Low Energyでは必要な周波数間隔は2MHzになり、変調係数は0.45~0.55になるため、設計コストが低減でき、必要となる電源要件も抑えられます。
EDRのBluetoothでは信号の送信レートを上げるため、変調方式を、低い送信レートで低消費電力のGFSKからπ/4-DQPSKおよび8DPSKの2種類のPSK(位相シフト・キーイング)にアップグレードしています。したがって、送信時のシンボル・レートは1Mシンボル/sのままでも、π/4-DQPSKという高次の変調によって送信レートは2Mbpsに上げることができ、8DPSKでは3Mbpsまで上げることができます。このようにして、Bluetoothのデータ伝送速度は大幅に改善されます。
Bluetoothモジュール組込みの流れ
新しい通信技術が開発されると、従来からある商品であっても新しい機能を搭載できるようになります。コーヒー・マシン、歯ブラシ、エアコンなど、家電製品が無線機能を搭載してスマート家電になるので、ユーザは携帯電話などのモバイル・デバイスのアプリケーションを使用することで、いつでもこのような家電製品をコントロールできるようになりました。このようなスマート・プラットフォームのアプリケーションは短期間で開発でき、近くにある電気製品をいつでも簡単にコントロールできるなど、ユーザには大きな恩恵をもたらします。
上記のようなスマート/無線電気製品を実現するためには、従来の家電メーカ、新しい装置を開発する新規メーカは、製品への無線機能の組込み方法を学ぶ必要があります。既存製品にBluetooth機能を統合する方法は数多くありますが、最も一般的な方法はBluetoothのモジュールを使用することです。Bluetoothモジュールを購入すれば全体のプロセスを大幅に簡素化できますが、直面しなければならない問題点も数多くあります。ここではまず、既存製品にBluetoothモジュールを組込む場合の代表的な設計プロセスを説明し、各プロセスで発生すると考えられる問題点を考えます。
Bluetooth機能を製品に搭載する場合の手順:
1 アプリケーションに適した無線規格を選定し、要求仕様を満たすにはBluetoothが最適であることを確認する。
2 製品に最適なBluetoothのチップまたはモジュールを選定する。
3 テスト機器を選ぶ、またはRF設計の専門家を雇う。
4 Bluetoothのチップまたはモジュールを製品に組込む。
5 アンテナのテストと最適化を実施する。
6 ラボにおいて、規制当局で求められている認証試験の事前テストを実行する。-発生する可能性のある問題点を調べ、手順4、5に戻って調整する。
7 各国または地域の無線認可機関において、認証試験を申請する(10万~30万円/日)。-試験不合格の場合は手順3に戻る。
8 Bluetooth機能の組込みを完了する。
このアプリケーション・ノートでは、“手順2:Bluetoothのチップまたはモジュールの選定方法”を中心に説明します。
Bluetoothモジュールの選定方法
Bluetoothモジュールは機能部品であり、適切なシステムに組込まれた場合にのみ正しく動作します。Bluetoothモジュールの選定においては、ハードウェアとソフトウェアの十分な検討が必要になります。
Bluetoothモジュールのハードウェアは、Bluetoothチップとアプリケーション・プロセッサで構成されます。マーケットに出回っているほとんどの製品は、アプリケーション・プロセッサを搭載したBluetoothモジュールを組込んでいます。モジュールのアプリケーション・プロセッサは、内蔵または外付けのフラッシュ・メモリ、ROM、RAMを搭載しています。さらに、このようなモジュールでは、タイム・クロック、シリアル通信インタフェース、コンパレータ、ADC、DAC、水晶オシレータ、デバッグ・インタフェースなど、さまざまなI/Oインタフェースを装備しています。
一般にBluetoothモジュールは、セキュリティを確保し、ユーザ操作、開発者の管理を容易にする、独自のアプリケーション・ソフトウェア・サポートが必要です。図に示すように、モジュールのソフトウェアは、通常制御プログラムとフル機能の管理/制御プログラムを含んでいます。
Bluetooth、その他のRFモジュールの選定では、想像以上に市場に数多くのソリューションがあることに気付きます。モジュールの製造メーカまたは供給業者は通常、伝送レート、伝送距離、周波数バンド、規格適合性、パッケージ寸法などによってモジュールを分類しています。適切なモジュール選定で影響を及ぼす可能性のあるパラメータを、簡単に説明します。
項目 |
概要 |
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プロトコル/規格 |
Bluetooth規格は、現時点において代表的なベーシック・レート(BR)、拡張データ・レート(EDR)、最新のLow Energy(LE)を含めて数多くのバージョンがあります。 それぞれの無線規格、バージョンには長所と短所があります。それぞれに異なった仕様があるため、アプリケーションに適したデータ送信レート、必要な消費電力、その他のパラメータでモジュールを選定する前に、それぞれの長所、短所を考慮する必要があります。絶え間ない無線規格の進歩により、新しい規格ではより高速なレート、低消費電力が可能になります。しかし一方、成熟した規格は、より大きなマーケット・シェアと優れた互換性という利点があります。 例えば、Bluetoothモジュールを選定する場合、そのモジュールが他の規格をサポートしているかなどといった要素も考慮する必要があります。Bluetoothモジュールは2.4GHzバンドで動作するので、高速伝送の要求に応えるためにWi-Fiに対応していることもあります。 |
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周波数バンド |
クラシックBluetoothでは、2.400GHz~2.4835GHzにおいて合計で79チャンネルあり、チャンネル間隔は1MHzです。Bluetooth Low Energy(Bluetooth4.0)は低消費電力とコストに注力しているため、フィルタ設計の要件は比較的低く、チャンネル間隔は2MHzに増え、チャンネル数は40になっています。 BluetoothとWi-Fiを一つの装置に搭載する場合、Wi-Fiの動作周波数バンドには注意が必要であす。802.11b/g/nはBluetoothと同じ2.4GHzで動作しますが、802.11a/h/j/n/ac/pなど、他のバージョンのWi-Fiが必要な場合は、Bluetoothモジュールは5GHzに対応する必要があり、モジュール設計のコストを押し上げることになります。 |
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伝送距離 |
Bluetoothのネットワークは他の無線技術同様、距離が限られています。伝送距離はバージョンによって異なり、Bluetooth Low Energy(Bluetooth4.0)では長くなります。同じバージョンでも、電力クラスによってサポートされる伝送距離は異なります。 電力クラスが上がると伝送距離は伸びます。各クラスを以下に示します。 • Class3:最長1mであり、至近距離の伝送に適用されます。 • Class2:最長10mであり、ほとんどのモバイル・デバイスに適用されます。 • Class1:最長100mであり、主に工業用に適用されます。 実際の信号伝送の有効距離は、伝送条件、素材、製造のバラツキ、アンテナ、バッテリなど、実際の環境条件によって異なります。 |
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伝送出力パワーと動作電流/電圧 |
パワーが大きければ到達する距離も伸びます。Bluetoothのパワー要件を以下に示します。
機器は、Bluetooth規格で規定されている要件の他に、国または地域の行政機関によるスペクトラム規制当局で規定されているパワー要件にも適合しなければなりません。一般に、Bluetoothデバイスはバッテリで動作します。バッテリの充電サイクル、バッテリ寿命に直接影響するため、機器の動作電流/電圧は慎重に検討する必要があります。 |
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マイクロプロセッサ/マイクロコントローラ |
マイクロプロセッサ/マイクロコントローラは、RFモジュールの中枢部のようなものです。ハードウェアの機能を最適化し、無線データを受信し、信号を高速に処理します。プロセッサの選定で考慮しなければならないものには、価格、寸法、メモリ容量、消費電力、周辺機器の拡張性、処理速度などがあります。 |
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オペレーティング・システム(OS)(ドライブ・サポート) |
Android、iPhone/iPad、Linux、WindowsがBluetooth規格をサポートするので、エンド・ユーザはスマート・プラットフォームを利用することによりBluetoothの接続がすばやくセットアップでき、Bluetoothのアプリケーションのモニタもできます。製品でこの機能を有効にするのであれば、オペレーティング・システムとそのドライバ・サポートを検討する必要があります。 |
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送信レート |
Bluetooth Low Energyは単純な情報伝送にフォーカスされており、送信レートを確保するようには規格化されていないため、理論上の最高帯域幅(1MHz)の送信レートをサポートしていません。高速レートでデータを送信するとBluetooth Low Energyは大きな電力を消費し、本来の設計コンセプトに矛盾します。高速な送信が必要な場合は、EDR BluetoothまたはWi-Fiによる高速なレートを検討するべきです。伝送レートを高速化した場合は、どのような手法であっても、間違いなく大きな電力を消費します。
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アンテナとインタフェース |
Bluetoothモジュールのアンテナは、無指向性アンテナと指向性アンテナの2種類に大きく分類されます。
アンテナ・インタフェースは、チップ・アンテナとU.FLインタフェースによる外部アンテナに分類されます。チップ・アンテナは、ここ数年で一般的になってきた新しい技術です。モジュール全体のサイズはおよそ8×5×2.5mmと小型化されています。外部アンテナは使い方に柔軟性があるため、寸法の制約にしばられないようなアプリケーションに適しています。 また、アンテナが規制当局に認可されていることも選択上の重要な要件です。モジュール、アンテナが共に認可されていれば、国によってはそれだけで製品自体が適合することがあります。 |
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通常の動作温度 |
Bluetoothモジュールの一般的な動作温度は、-40~+85℃です。現在、ほとんどのBluetoothモジュールは、商業用途向けの温度範囲で設計されています。使用時にファンなどの保護装置または隔離壁が取り付けられている場合に、広範囲な温度で動作可能なモジュールもあります。 |
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ハードウェア・インタフェース |
最も一般的なデータ・インタフェースとしては、シリアルUART接続、SDIO(SDインタフェース)、SPI(Serial Peripheral Interface)またはUSBがあります。SDIO、SPI、USBのインタフェースは、データの高速伝送には欠かせません。デジタル・インタフェースは、機器とプロセッサの接続に使われます。 |
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その他の要素 |
その他に検討すべき項目としては、外観と寸法、パッケージング、PCB設計、実時刻のタイム・スタンプ、自動スリープ/アクティベーション、無線によるファームウェア・アップデート、デモ・ボード、ユーザ・プログラム・インタフェースなどがあります。 |
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規制コンプライアンス:EMI/EMC適合 |
モジュールの製造メーカは、製品を事前認証またはテストした状態で市場に送り出しており、モジュールとしては規制をクリアしています。このような認証デバイスを買ったとしても、統合された製品は規制当局で規定されたEMI試験を再び受ける必要があるのでしょうか。 その答えはYESです。世界中のほとんどのスペクトラム規制当局は、ヨーロッパのESTI/CE認証の適用除外などの関連法規、規制をもっていないため、無線組込製品は規制当局で規定されたEMI試験を受けて認証されなければなりません。つまり、EMIの認証および試験は、モジュールではなく製品ベースで受ける必要があります。詳細については、当社アプリケーション・ノート「無線LAN機器を技術基準/無線規格に適合させるためのプリコンプライアンス」をご参照ください。 |
Bluetoothモジュールのすべての特性の中で、送信レート、カバレッジ範囲、消費電力が重要な要素になります。過去10~20年において、科学者や技術エンジニアは絶え間ない努力により無線によるデータ送信を高速にしてきました。無線通信システムの多重化、符号化、変調はますます複雑になり、同時に処理と計算にかかるコストと消費電力も増えました。Bluetooth技術そのものは、高速伝送に優れているものではありません。アプリケーションで高速が求められている場合は、802.11nや802.11acなどの高速のWi-Fiプロトコルが推奨されます。ほとんどのモジュールは同時にBluetooth機能も組込まれており、機器の拡張性も広がります。一方、医療モニタリング、安全性のモニタリングなど、接続性のみを重視するアプリケーションであれば、まず消費電力を検討することになります。
Bluetoothモジュールで重要なRF性能テスト
Bluetoothモジュールの購入でRFエンジニアは不要になるか?
従来からのRF製造をしていないメーカが、製品に無線モジュールを統合する場合の最も大きな問題の一つは、RF開発経験に乏しいということです。幸いなことに、モジュールの製造メーカはIoT(Internet of Things、モノのインターネット)のための無線接続ソリューションを数多く提供し始めています。このようなメーカは独自に無線モジュールを開発、テストしているため、RF分野におけるエキスパートになります。RF技術に戸惑う場合、このようなメーカは大きな手助けになります。
しかし、モジュール製造メーカのエンジニアに特定の製品への無線モジュール組込に参加してもらい、RF設計で発生するすべての問題を解決することは現実的ではありません。IoTデバイスの無線統合によって製品が市場に投入されるようになるまで、RFのエキスパートは必要になります。このような技術サポートは、RF分野に特化したコンサルタントを雇ったり、専門機関やテクトロニクスなどの専門RFテスト機器メーカに頼ることになります。
IoTのマーケットに現在出回っているほとんどのBluetoothデバイスは、単に接続性をテストしたり、またはプロトコル・アナライザで伝送品質を検査しているに過ぎません。プロトコル・アナライザは診断ネットワークに接続することで、アプリケーション・レイヤの問題を非常に効率良く検査できますが、問題の多くはより複雑な物理レイヤで発生するため、Bluetoothのテストではスペクトラム・アナライザ が欠かせません。スペクトラム・アナライザは、規格仕様のテストに使えるだけでなく、認証機関で規定される放射テストでも使用でき、さまざまなドメイン、電子回路のさまざまな部品からの干渉検出にも使用できます。
現在、マーケットには数多くのスペクトラム・アナライザがあります。多くのスペクトラム・アナライザはハイエンド・テスト用に、その他のローエンド・ソリューションは基本測定にフォーカスされて設計されています。一方、RSA306B型などのリアルタイム・スペクトラム・アナライザとSignalVu-PCソフトウェア は、無線デバイス設計エンジニア、製造メーカのための低価格、強力、ポータブルな計測ソリューションです。ローエンドのスペクトラム・アナライザと違い、テクトロニクスのRSAシリーズは40MHz帯域と高速のサンプリング周波数により、Wi-FiとBluetoothの両方の要求に応えます。高価で大型のハイエンド・ボックスと違い、RSA306B型は従来機器の1/10の価格であり、片手で持てる大きさです。PCベースのソフトウェアには無償の17種類の測定および観測機能があり、オプションでBluetooth、Wi-Fiのテストも実行できます。
テクトロニクスのSignalVu-PCソフトウェアのBluetooth解析オプションは、機器から出力されるRF信号が、SIGによって発行されているV4.1規格に適合しているか検証します。このオプションでは、BR(ベーシック・レート)、EDR(拡張データ・レート)、最新のLE(Low Energy)の3種類のBluetooth規格がテストできます。それぞれの規格のテスト項目には、パワー、周波数偏移、スペクトラムなど、異なったプリセットが含まれています。規格で規定されているすべてのテストのパス/フェイルが表示されるため、Bluetooth規格を総合的に理解していなくても、ワンボタン操作でテストを実行できます。RSA306B型とSignalVu-PCを使ったスクリーンショットとテスト・セットアップを、以下で説明します。
テスト項目の概要
テクトロニクスのSignalVu-PCソフトウェアのBluetoothオプションには、数多くのテスト項目が含まれています。基本的に、Bluetoothで必要となるさまざまなテストをご紹介します。この章では、Bluetoothテストを簡単に説明しますので、必要に応じてテスト項目を選択し、デバイスが規格要件を満たすことを効率的に検証します。
変調特性
変調特性のテストでは、伝送信号が変調機能を正しく持っていることを検証します。ほとんどのBluetooth規格では変調形式としてFSKを使用しているため、EVM値を観測する、他の複雑な変調形式(QPSK、QAM)と違い、周波数偏移によってFSKの変調品質を検査します。
Bluetooth規格によると、変調特性のテストでは固定周波数または周波数ホッピングのない環境で実行するよう推奨されています。Bluetoothの変調特性テストでは、周波数偏差のピーク値と平均値をテストするために、10101010と11110000という2種類の特殊なデータ・パターンを送る必要があります。実際のデータ伝送は、疑似ランダム・シーケンスを伝送することでシミュレーションできますが、10101010などの特殊なビット・タイプを送ることで、Bluetoothの変調特性におけるフィルタ・テスト、スペクトラムの変化など、さまざまな情報が得られます。11110000のビット・タイプ・データによって4つの1と0を連続的に送出すると、信号出力は周波数偏移の最大値になり、ガウシアン・フィルタ関数が検出できます。この2種類の特殊なビット・タイプ・データは規格で規定されており、トラブルシュートにおいて優れたヒントになります。
EDR Bluetoothでは、変調形式として高次のPSKが使用されているため、アイ・ダイアグラムとコンスタレーション・ダイアグラムにより変調状態がより直感的に確認でき、EVMによって変調品質が測定できます。
キャリア周波数のオフセットとドリフト[KS1]
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キャリア周波数のオフセットとドリフトのテストは、トランスミッタからの送信信号のキャリア周波数が規定範囲内に制御されており、送信周波数が安定していることを検証します。このテストは、固定の送信周波数、ホッピング周波数または直接送信モードにおいて、10101010のビット・パターンで実行します。SignalVu-PCでキャリアの周波数/ドリフト・テストが終わると、以下のような測定結果が表示されます。
- プリアンブル周波数偏差(初期キャリア周波数偏差)
- データの最大周波数偏差(および最大偏差が発生するデータの位置)
- プリアンブルからその前10ビット・データまでの周波数ドリフト
- データとプリアンブルの最大スペクトラム偏差(fn-f0)(および最大偏差が発生するデータの位置)
- 50μs間隔における10ビットごとの最大ドリフト(および最大偏差が発生するデータの位置)
インバンド・スプリアス放射
インバンド・スプリアス放射テストは、Bluetooth伝送バンドのスペクトラム・スプリアス信号が規格で規定された範囲に入っていることを検証します。Bluetooth規格では、このテストは周波数ホッピングしている状態で実施するように推奨されているため、2401MHz~2481MHz、80チャンネルの各1MHzバンドの統合パワーがテストできます。テストでは、隣接チャンネルの統合パワーが計算され(伝送中心周波数近くの3チャンネルは除く)、規格で規定されているパワー・リミット値と比較されます。
このテストは、Bluetooth RF仕様のACPRテストに相当します。
出力パワー
先に説明したように、Bluetoothデバイスには3種類のパワー・クラスがあり、それぞれにおいてパワー・リミットが厳しく規定されています。出力パワー・テストでは、テスト・デバイスの最大ピーク・パワーと平均パワーを測定します。規格では、出力パワー・テストにおいてはPRBS信号を伝送するように推奨されており、テスト信号の時間長はプリアンブルとバーストをカバーする必要があります。伝送モードは固定周波数が推奨されています。
20dB帯域幅
20dB帯域幅テストは、送信信号の放射周波数範囲が規格要件に適合することを検証します。送信モードは固定周波数が推奨されています。20dB帯域幅とは、テスト・デバイスによって送信される信号のピークよりも20dB低いレベルの帯域幅からきています。ベーシック・レートでは、20dB帯域幅は規定通りに1.0MHz以下である必要があります。この仕様を満たさない場合は他のチャンネルに干渉を与えます。
周波数範囲
周波数範囲テストは、20dB帯域幅テストと同様に、バンドの送信信号パワーが特定のリミット範囲に入っていることを検証します。このテストは、ホッピングしない固定周波数において2つの手順で実行します。最初に、Bluetoothのロー・バンド(2399MHz~2405MHz)スペクトラムで行い、次にハイ・バンド(2475MHz~2485MHz)スペクトラムで行います。ロー・バンドにおいて中心周波数のピーク・パワーよりも30dB下がったところの最も低い周波数を(fL)と呼びます。ハイ・バンドにおいて中心周波数のピーク・パワーよりも30dB下がったところの最も高い周波数を(fH)と呼びます。fH-fLが周波数範囲になります。これは、ベーシック・レートのBluetooth規格で求められるテストの一つです。
パワー密度
パワー密度テストは、送信されるRF出力の最大パワーが規格要件に適合することを検証します。Bluetooth SIGでは、どのパワー・クラスのどの変調モードであっても、100kHzあたりのパワーが100mW(20dBm)を超えないように規定しています。また、Bluetooth規格に適合したデバイスであっても、地域で規定されるスペクトラム管理規制をチェックする必要があり、パワー密度が関連する要件に適合する必要があります。例えば、European ETSIではパワー密度が1MHzで20dBW(10mW)を超えないように規定しています。
アウトオブバンド・スプリアス放射
アウトオブバンド・スプリアス放射は、さまざまな理由(ほとんどの場合がハードウェア設計)による、送信バンドから外れるエネルギー・リークを意味し、他の信号やデバイスへの干渉の原因となります。EMCの放射テストと同様、意図的な放射に対するEMIテストが中心となります。一般に、アウトオブバンド・スプリアス放射は国、および地域のスペクトラム規制当局によってテストされるため、Bluetooth規格にはこのテストに関する特別な要件はありません。SignalVu-PCはスプリアス測定を標準でサポートしており、無償で利用できます。
レシーバ・テスト
Bluetoothのレシーバ・テストでは、Bluetoothレシーバが信号を正しく受信できることを確認します。Bluetooth規格で規定されているレシーバ・テストの項目には、感度テスト、ブロック・テストなどがあります。一般に、レシーバ・テストには高い確度で校正されたシグナル・ジェネレータが必要になります。
TSG4100Aシリーズ・ベクトル信号発生器は、高品質なBluetooth信号が発生できるため、Bluetooth製品の設計、検証テスト、製造などに適しています。テクトロニクスのTSG4100Aシリーズは、お求めやすい価格でミッドレンジのRFVSG性能と優れたベクトル信号変調機能を備えており、Bluetoothのレシーバ・テストには理想的なソリューションです。400MHz~6.0GHzの広い範囲のベクトル変調信号が出力でき、内蔵のIQベースバンド・ジェネレータにより、ASK、QPSK、DQPSK、π/4DQPSK、8PSK、FSK、CPM、QAM(4~256)、8VSB、16VSBなど、IoT業界で広く採用されているベクトル変調形式に対応します。内蔵されている標準パルス形状フィルタとしては、レイズド・コサイン、ルートレイズド・コサイン、ガウシアン、方形波、三角波などがあります。内蔵のIQベースバンド・ジェネレータは125MS/sのサンプリング周波数で16Mファイルを保存できるため、Bluetooth信号でレシーバ・テストを行うユーザに最適です。
テクトロニクスのBluetoothソリューション
テクトロニクスのRSA306B型、RSA600シリーズ・スペクトラム・アナライザとSignalVu-PCOpt.27
SignalVu-PCソフトウェア
SignalVu-PCソフトウェアは強力なRF/ベクトル信号解析ソフトウェアであり、テクトロニクスのすべてのRF製品で使用できます。SignalVu-PCは、無償で17種類の測定が可能であり、オプションの追加により簡単にアップグレードできます。これにより、Bluetoothの測定、トラブルシュートに対応できます。以下のような特長があります。
- Bluetooth SIGの仕様におけるクラシックBluetooth、Bluetooth Low Energyの物理レイヤのRF測定が可能
- さまざまなテスト・セットアップにおいて、シンプルなプリセットによる復調とシンボルの情報が得られる
- Bluetooth Basic RateとLow Energyの自動測定
- Bluetooth EDRのパケット検出
テクトロニクスのリアルタイム・スペクトラム・アナライザは、設計の詳細を調べることができ、製品の市場投入に対してお役に立ちます。RSA306B型、RSA600シリーズ・スペクトラム・アナライザは、ベンチトップ・タイプのスペクトラム・アナライザに比べて半分以下の価格でBluetooth信号を測定、テストできます。
Bluetoothモジュールの組み込みに最適なスペクトラム・アナライザ
Bluetoothモジュールの組み込み作業での信号の測定やテストに最適な、テクトロニクスの最新のスペクトラム・アナライザをご紹介します。
RSA306B型USBスペクトラム・アナライザ
RSA306B型USBスペクトラム/シグナル・アナライザは、小型・軽量でありながら、優れた性能を備えています。
RSA500シリーズ・リアルタイム・スペクトラム・アナライザ
業界をリードする優れた堅牢性と可搬性、現場での作業に必要な高度な機能をすべて備えたUSBリアルタイム・スペクトラム・アナライザを使用することで、目的の信号を検知し、問題の解決に必要な行動を取ることができます。
RSA600シリーズ・リアルタイム・スペクトラム・アナライザ
高確度のRSA603A型/RSA607A型USBスペクトラム・アナライザは、無線デバイスの統合やEMI、IoTプロジェクトに役立つ豊富な機能を備えており、デバイスやコンポーネントの視覚化/特性評価に最適です。